2023年(令和5年) 9月16日(土)付紙面より
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山形大農学部は、野菜くずなどの生ごみを餌に飼育した昆虫のふんを活用して農業用の肥料を作るプロジェクトに取り組んでいる。この成果として農学部と、肥料を使って作物栽培に協力している庄内農業高が12日、収穫したジャガイモを鶴岡市立荘内病院に贈った。同病院が患者用の病院食調理で発生した野菜くずを農学部に提供したものが、昆虫を介して食物として循環した。提供を受けた同病院の鈴木聡院長は「地球環境に優しい資源循環型農業の取り組みであり、SDGsそのもの。廃棄されていた野菜くずが食材として戻ってきた」と感謝の言葉を贈った。
山大農学部の佐藤智准教授(50)=応用動物学=の研究室は3年前から、農学部構内で捕まえたアメリカミズアブ(ハエの一種で刺さない)の幼虫に生ごみを餌として与え、排出されたふんを肥料として活用する研究に取り組んでいる。名付けて「ヤマダイミズアブ・プロジェクト」。これまでに学部内の食品残さを餌に活用して、生ごみ排出ほぼゼロを達成。今年2月からは、荘内病院の協力でニンジンやナス、キャベツなどの野菜くず、パイナップルやオレンジの果物の皮などの廃棄物の提供を受け、プロジェクトを進めた。
同病院からの餌はこれまで約340キロあり、100キロほどの肥料を生産。庄内農業高の2、3年生12人が、この肥料の一部を活用して今春、ジャガイモを植え付けた。昆虫由来のふん肥料、化学肥料、無肥料と対照区を設けて栽培し、先月収穫した約14キロを無償で病院に届けた。
贈呈式が同病院で行われ、生徒たちが鈴木病院長に目録とジャガイモを手渡した。庄内農業高3年の野菜栽培班長、佐々木雄大さん(17)は「病害もなく普通の肥料よりも成長が良い感じがする」と話した。11月ごろには同じ肥料で栽培しているサツマイモも病院に届ける予定。
学生や留学生らも加わる佐藤准教授の研究グループは、農学部にある四畳半ほどの広さの研究室でアメリカミズアブ約10万匹を飼育。年間1―2トンの生ごみから600キロほどのふん肥料を生み出し、研究用にだだちゃ豆や水稲の肥料として活用するほか、庄内地域や内陸、県外のソバやマッシュルーム、長ネギ、自然薯(じねんじょ)の生産農家に試験的に提供している。さらに、幼虫は米沢コイなど淡水魚の餌としても供給する。昆虫による生ごみ処理や幼虫の資源化は世界的に研究が進む。佐藤准教授は「生ごみを焼却処理すると重量の2倍の二酸化炭素が発生する。昆虫による分解は二酸化炭素がゼロ。今後10年ぐらいのスケールでプロジェクトを進め、地域内循環によって生ごみがごみではなくなる取り組みを拡大させていきたい」と話した。