2023年(令和5年) 10月19日(木)付紙面より
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新刊「わっしーメモ」で最後の著者紹介ページでも亡き京子さんとの母子漫才が「思い出」として繰り広げられているのはほほ笑ましい限りだ。
息子の行動に母は心配のあまりか「おまえの親の顔を見てみたい」と突っ込んでくる。「親っておめだろ(あなただろう)」と息子は返す。まるでコントのようだ。認知症になって、実の息子のことも時に忘れる母。半信半疑のまま反応にちゅうちょする息子の姿はホロ苦くもある。
夫の死後6年間2人暮らしだった母子の泣き笑いが全編展開され、1冊にまとまった。息子わっしーは母の状態に関して周囲へ気兼ねも見栄も両方なくすように、ありのままを受け入れることになっていく。
2019年秋、本紙に「認知症・介護コーナー」が設けられた。時代の要求に応えての情報面。鶴岡市、三川町の認知症カフェなど、各機関の認知症対策の取り組みなどを記事にした。
その当時からさかのぼること5年前、母は既に亡くなっていたが、介護の経験を講演し、ブログでも発信していた同僚・鷲田良平氏にコラム依頼となった。書いてもらったら、エピソードは枯れることはなかった。「掲載時期に合った思い出を入れてほしい」と頼むと思いは湧き上がるように、松の勧進、おせち料理、雪かきと時期ごとの母子の触れ合いがユーモラスに書き込まれた。母は認知症になって思わぬ行動を取り、息子は悪戦苦闘するが、「あの時、もう少し優しくしておけば良かった」の悔いが胸を打つ。認知症の家族を看取(みと)った人なら分かる感情だろう。
一方で店、食堂、バス会社、警察官など京子さんに対して気配りや優しい態度を見せる地域社会にもホッとする。今後さらに社会全体に広がってほしい流れだ。
読後感は家族の認知症を隠すことはないんだということに尽きた。今、認知症の家族を抱えている人、将来ありそうな人、いろんな人に読んでほしい内容がある。(東京支局長・富樫嘉美)
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同書は160ページ、1100円(税込み)。鶴岡市のぶっくすプロほんの森、阿部久書店、八文字屋鶴岡店、荘内日報社で取り扱い中。