2023年(令和5年) 10月25日(水)付紙面より
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庄内砂丘の海岸沿いの砂防林を中心にクロマツの立ち枯れ(松くい虫被害)が急増している。被害は庄内だけでなく隣県の新潟と秋田にも及ぶ。森林総合研究所東北支所(盛岡市)は、今年8月の高温少雨の影響で松枯れを引き起こすマツノマダラカミキリとマツノザイセンチュウの動きが活発になったことが原因とみている。酒田市や鶴岡市の砂丘地ではあちらこちらでクロマツが真っ茶色に枯れ、専門家の間では過去最大級の被害になることが予想されている。
県庄内総合支庁森林整備課によると、庄内では1979(昭和54)年に「松くい虫」の被害が出始めた。被害木は94年に1万立方メートルを突破。2008年ごろ一時下火となったが、13年から再び増加に転じた。16年にはこれまで最大の3万立方メートルを超え(3万1228立方メートル)、昨年は2万2939立方メートルだった。これまでの統計調査から前年の夏に高温少雨となり、翌年に被害木が急増する傾向がみられる。
クロマツの立ち枯れは例年8月から際立つ。マツノザイセンチュウが寄生したマダラカミキリがクロマツに卵を産み付けるなどしてセンチュウが内部に入ると異常が生じる。これまでの研究では、幹に入ったセンチュウの動きに対してクロマツの防御反応が暴走して枯れ死することが有力視されてきた。人間の体に例えれば、アレルギー反応と同じようなものと考えられる。
長年、酒田市の砂丘地でダイコンを栽培している農家は「いつもの年ならポツポツという感じだが、今年は1カ所に3、4本まとまって(クロマツが)枯れている。こんな光景は見たことがない」と話す。
森林整備課が行った状況調査では県内だけでなく隣県の新潟や秋田でも被害が拡大していることが分かった。秋田県によると、市内南部の海岸線を中心にひどく、全体の被害木は昨年の倍になりそうだとの見通しもある。新潟では枯れたところに新たに植えた“2代目のクロマツ”が被害を受けた。
山形県森林研究研修センターでは、松くい虫に強い「抵抗性クロマツ」の苗木を養成し、被害の拡大を抑えようと努力を続けている。しかし、種子を取って苗木に成長させるまで長い年月がかかり、抜本的な対策とまでは至っていないのが現状だ。
森林総合研究所東北支所の中村克典産学官民連携推進調整監(59)は「温度が高く推移してマダラカミキリとセンチュウの動きが活発になり、特に今年は過去に例がない被害の拡大が予想される。対策としてはこれまで通り地道な伐採防除を続けていくしかない」と説明する。
庄内総合支庁森林整備課では近く被害木の現地調査に入る一方、業者の入札を経て枯れたクロマツの伐採処理を行う。被害木はチップや木質ペレットに加工。ストーブの燃料などに有効利用する。