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2023年(令和5年) 10月29日(日)付紙面より

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へそ曲がりの戯言(ざれごと)34 「また経済対策」「またばらまき」ですか?

 岸田文雄総理は今月中に新たな経済対策を打ち出す構えです。何でまた経済対策なのか、選挙目当てにまたばらまき政策を繰り広げるのではないかと、私は訝(いぶか)しく思っています。今回はこの問題を取り上げます。

 岸田総理が「経済対策」を口にした途端、自民党の中から対策の規模は「15兆から20兆円」「減税も」という声が吹き出し、選挙に向けてのお祭り騒ぎのようになりました。

 そして、岸田総理は26日、1人あたり一律に計4万円の所得税と住民税の減税を来年6月に実施すること、減税の対象にならない住民税非課税世帯には1世帯あたり7万円を給付する方針を明らかにしました。所得減税と給付は総額5兆円規模になる見通しです。

 しかし、何で今新たな対策が必要なのでしょうか。岸田総理は、国民が物価高に苦しんでいること、持続的な賃金引き上げを実現すること、成長のために新たな投資を促す必要があると言います。

 まず経済の動きを確認しましょう。今年4月から6月の実質GDP(国内総生産)は4・8%で、絶好調のアメリカの2・4%を上回っています。経済の実力、潜在成長率は0・5%程度しかないのですから明らかに出来すぎです。更に企業は人手不足や環境対策などで積極的に設備投資を進めており、いま景気をてこ入れしなければならない状況ではありません。

 次に物価対策をどう考えるかです。国際的に食料やエネルギー価格が上がる中で、各国とも同じ状況なのに対応ぶりは全く違います。日本ではガソリンの値上がりを抑えるため補助金を出しています。これに対して、ドイツは価格の上昇を放置して消費者に省エネを促し、新たに住宅を建設する際には再生エネルギーの利用を義務づける構えです。1970年代に石油ショックが起きた時、日本が取った政策と同じです。この時、日本企業は大変な努力で省エネ技術を開発して、自動車などは圧倒的な競争力を付けました。

 物価が上がれば所得の低い層は生活が苦しくなるから、支援は必要かもしれません。しかし、お金持ちも同じように支援する必要はないはずです。 岸田総理の示した案のうち、低所得者への給付は理解出来るにしても、所得税減税はすべきで無いと思います。自民党の中では減税について高所得者を外す意見も出ていますが、岸田総理は「子育て世帯の分断を招くことはあってはならない」と全ての人に支給したい考えです。しかし、子育て支援は別の次元で考えるべきで、経済対策として対応するのは筋違いだと思います。

 そして、成長戦略です。政府の「新しい資本主義実現会議」は「コストカット型の低温経済を適温の成長型経済に3年間程度の『変革期間』で転換させる」と言い、経済対策で持続的な賃金引き上げや新たな投資を促すために、企業に対する減税が検討されています。

 しかし、そこまでする必要があるのか、私は疑問を持っています。失われた20年、失われた30年と言われる中で、国民は消費税や社会保険料が増えて可処分所得は下がり続けてきたのに、企業はしっかり儲けて内部留保をため込んでいます。企業が利益などから賃金に回す労働分配率は55%と、石油ショック当時の1974年以来の水準まで下がっています。法人企業統計によれば、今年4月から6月の企業の経常利益は31兆円と過去最高を更新しています。要するに、企業全体としては賃金を更に支払う余力は十分あり、今や設備投資だって積極的です。

 企業は何かあると政府に支援を求める体質が染みこんでしまいました。かつて企業は国際競争力を維持するために法人税を引き下げるよう求め、ピーク時に43・3%だったのが1987年以来9回下げて、現在は23・2%まで下がりました。ところが、法人税を下げても競争力は回復しませんでした。

 今、人手不足は更に深刻になるから、優秀な人材を確保するために企業は賃金を引き上げるしかないし、半導体などの先端技術でも世界から取り残されないよう投資を決断せざるを得ません。こんなことにいちいち政府が助け船を出す必要があるのでしょうか。

 以前のコラムで日本は社会主義的な経済になって力を失ったから、そこから脱皮する必要があると申し上げました。岸田総理の対策は、こうした反省無しに「おんぶにだっこ」の甘ったれの体質を、更に助長するとしか思えません。

 所信表明で私が一番呆れたのは、このところ増えている税金の増収分を国民に還元して生活苦の負担を軽くするというくだりです。国の財政はコロナ以降、いわばばらまき政策が定着した感があります。税収の増加をはるかに上回る支出の伸びで、国の借金はGDPの2・6倍と戦時中よりもひどく、先進国の中で最悪です。これから国防・少子化対策に巨額のお金を投じようというとき、財政規律を全く考えない発想は信じられません。

 財政が行き詰まったらいずれ増税でツケを精算しなければなりません。目先の「甘い言葉」で関心をひこうとしても、国民は行く末は分かっています。演説の中で岸田さんは「『経済、経済、経済』、何よりも経済に重点を置いていく」と大見得を切りましたが、私にはただただ空疎に響くだけでした。

 岸田総理は小手先のばらまき政策を止め、積み残してきた重要な課題をひとつずつ片付けるべきです。昨今話題になっている、パートの人たちなどの給料が増えると新たに社会保険や税金を納めなければならず逆に収入が減ってしまう、いわゆる「所得の壁」の問題でも、2年後の年金制度の改正の時に考えるという悠長なことを言わず、一刻も早く抜本的な対策を打ち出すべきです。

 世間受けを狙った減税論議、内閣改造で女性の閣僚を5人も入れるなど、岸田総理は解散に向かってつんのめっているとしか見えません。支持率がつるべ落としとなっているように、世間の目は決して甘くありません。どうぞ解散して国民の厳粛な審判を受けると良いでしょう。

山田伸二(東北公益文科大学客員教授、元NHK解説委員)



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