2023年(令和5年) 11月1日(水)付紙面より
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普段、「文化」という言葉の意味合いを深く考えることもない。辞典には「文化は、社会を構成する人々によって習慣・共有・伝達される行動様式、生活様式の総体」とある。やや難しいが、人間は文化に囲まれていないと生きていけないということになるようだ。言語・習俗・道徳・宗教などの決まり事などのほか、食べ物を作り、食べることも「食文化」である。
人間が野生動物と大きく異なる点は、言葉を得た事ともいわれる。しかし、野鳥の中には危険を知らせ合うなど、共通の言葉を持っているとの研究もある。道具を使って餌を取り、食べる動物もいる。そうなってくれば、文化は人間だけではなく、生き物全てに当てはまることになる。
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言葉と同様に文字の存在も大きい。文章を書くのに文明の利器に頼ることが多くなった。学校では漢字の書き順も覚えなければならないが、今はパソコンのキーボードを押し、液晶画面をタッチするだけで瞬時に書こうとした漢字が表示される。しかし、本来の漢字を覚えていないと変換ミスで誤字を見逃すこともある。利器に頼り過ぎると、落とし穴も潜んでいる。
小学校低学年で習う漢字に挑戦してみた。書き順はともかく書けない漢字の多さに驚いた。情けない話である。かつて、鉛筆を持って原稿用紙に記事を書いていた頃、漢字にはそこそこの自信はあったが、その自信はすっかり薄れてしまった。今まで身に付けていた漢字を書くという「文化」が、手で書く頻度が減ったことで“退化”してしまったのだろうか。
日本語は奥深く、感情表現や感性は言葉から学ぶといわれる。そして、漢字を書くことは認知症予防につながるという。手書きの習慣を持つことで認知機能を活性化させて進行を遅らせる。漢字を一生懸命考えて脳を使うことの効果と、漢字が分からなくて辞書を開けば、一つの言葉から新しい言葉への広がりもある。脳は使わなくなると、物事を思い出す能力まで鈍くなる。1日に5分か10分間、新聞記事を書き写すことも効果的だといわれる。
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歌の世界は、目まぐるしく変化した。往年の浪曲や演歌などから、早口でしゃべるように、そして言葉を“崩す”ようにして歌うヒップホップなどが人気だ。歌は時代とともに変化するのは当たり前としても、今風の歌から、叙情的なものが感じられなくなったと思えてならない。
童謡や唱歌にはやさしい心がいっぱい詰まっている。大人になってもふと口ずさむことがあるのは、子ども時代に歌った記憶が消えないから。歌は、心を若く保たせる効果があるという。言葉や漢字という文化だけでなく「恥」の文化もある。人に迷惑をかけない生き方をすることもその一つ。さまざまな文化に対し、自分がどんな意識を持っているかを考えてみたい。