2023年(令和5年) 11月8日(水)付紙面より
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森林が二酸化炭素(CO2)を吸収する「グリーンカーボン」に対し、海藻が吸収するのは「ブルーカーボン」。CO2を吸収した海藻は死滅した後も海底に蓄積され、CO2を持続的に貯留することで温暖化対策の効果がある。酒田北港で、国土交通省酒田港湾事務所による「ブルーインフラ実証実験」の取り組みが、5企業・団体が参加して始まった。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などは、今世紀末の気温上昇を産業革命前と比べて1・5度に抑えるには温室効果ガス削減は不可欠とし、今の状態で温室効果ガス排出が続けば、6年後には目標達成が困難になると分析している。化石燃料の使用を減らしながらCO2を削減するためにも、ブルーカーボンの効果に期待が寄せられている。
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「ブルーインフラ」は、「藻場・干潟など生物共生型港湾構造物」との意味。酒田北港ではこれまで石炭灰を原料とした基盤材(ブロック)を海中に敷設、海藻を付着させてCO2削減と併せて魚礁効果も探ってきた。今度、東日本大震災で発生した震災がれきなどの活用も目指す産学官連携組織の「資源循環コンソーシアム」(宮城県)なども実験に参加、参加団体の特徴ある成果が待たれる。
海藻によるブルーカーボンについては、政府も2050年までの、脱炭素によるCO2排出実質ゼロに向けた役割を担うと位置付け、ブルーインフラ整備の全国の海への拡大を目指している。また「命を育むみなとのブルーインフラ拡大プロジェクト」の力になるのは官だけでなく民間団体や企業の参加による協力も欠かせない。
酒田港湾事務所は15年から海藻を育てる実験を始め、現在は官民挙げた「酒田港脱炭素化推進協議会」が環境改善に取り組んでいる。日本の沿岸は海水温上昇などの影響で、海藻の生息域が減少している。庄内沿岸でも磯焼けで岩場の海藻類が減り、貝類の成長への影響が心配されている。森林生態系保護と同様、海洋生態系も藻場造成で保全し、併せて漁業資源を増やすことに生かさなければならない。
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酒田北港での5企業・団体による実験では、ブロックの表面に凹凸を作って藻が着床しやすい形状にしたものや、製造過程で出る鉄鋼素材など、数種類のブロック21基を水深約3メートルの海中に沈め、付着を促す。
酒田北港でのブルーインフラ実証実験にはCO2吸収と併せ、藻の付着によって小魚が育つ漁礁の役目も期待でき、沿岸漁業にとっても朗報になるのではないか。これまでの実験で沈めた消波ブロックにアカモクが群生し、ハタハタの産卵などが確認されているだけに、期待感は大きい。今行われている実験でも、環境改善だけでなく漁業資源を増やすことにつながるとなれば、ぜひとも良い結果が得られることを待ちたい。