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2024年(令和6年) 1月28日(日)付紙面より

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考 庄内の農林水産業に夢を

 鹿児島の知友の息子が、家で採れた文旦だからと、宅急便配達の方が「重いのぅ」と言うほどの大きな一箱を贈ってきた。「南洲翁遺訓」に関わる親世代の友人は、もう他界した。

 知人の供物にと送った庄内産「つや姫」が、あまりに美味しかったので、その後は若い人らしく「ふるさと納税」などを活用して、「つや姫」をゲットしているのだと言う。ふるさと自慢の物産を詰め込んで春秋に「鹿児島」を届けてくれた35年ほど続く知友であった。北海道札幌市に住む友人も全国大会の記念に配った500グラムの米が機縁で、あれから25年以上も庄内の米を取り寄せ続けている。庄内の米の安全安心美味に、生産者はもっともっと自信を持って、売り込んでいい。販売ルートを庄内の農家らしい篤実さでつなぎ、体験的に関わる範囲の拡大が望まれている。

 かつて宮沢賢治は「雨ニモ負ケズ」の詩の中で、「一日玄米三合と」と貧しきものの食を表現した。現今普通の食生活では一人一合が、その消費量とも思える。飼料用米が栽培され始めた時、豚や鶏がコメを食べると言うことに強い衝撃を受けた。しかし庄内の稲田が広がる原風景が保たれ、防災上にも大きな役割を果たしている稲田の保持は、経営者の先見の明に拠るものであった。庄内の畜産は、収益を拡大し全国版になっている。多収穫を目標とする飼料用米生産は、価格が安いので、再生産の費用を蓄積し得るまでにいかない課題はある。しかしウクライナ問題一つに考えても、飼料まで輸入に頼らざるを得ない日本農業の脆弱(ぜいじゃく)さからすれば、先祖伝来の田地保有に責任を負う庄内の農家の営々たる奮闘には頭が下がる。

 激烈な猛暑を体験した昨年は、庄内の1等米比率は31%まで下がってしまった。それでも日照時間の積算を確実に実施し、8月こんなにも早くと思うほどに刈り入れた稲は、100%の1等米だったと聞く。「作物は人の足音を聞いて育つ」と古来言われてきたが、愛情を傾けた育成と科学的なデータ、それを活用できる技術の三者融合の生産管理の実施と、仲間同士の研鑽(けんさん)が支えとなる。

 魚類も敏感に水温の変動に対応し、水揚げされる種類の変化が著しい。自然災害の激烈化を最小限に回避し、いのちを護る食の備えをするには、産金官学の結束した地域支援が望まれている。

 山形県の新規就農者は東北トップと聞く。

 新規就農者育成で奮闘する方々に、講話の機会があった。指導体制は手厚く、学び手たちの真摯(しんし)さが印象的であった。鹿児島県沖永良部島のように、全島米生産は止め、花き栽培に切り替えて農業生産高を確保している所もあるが、庄内の地理を活かした景観の美しさは、そこに育まれた精神文化の特異性とともに、広く国際的観光の資源でもあり得る。

 近年は「探求型学習」の学びの成果で、地域課題の解決を模索する高校生たち若者を中核にした感性豊かな提案も相次いでいる。体験を通した地元愛を受け止め、生き残れる庄内の農林水産業の未来像を共有化したい。

 藤島にある県立農業試験場庄内支場(現県農業総合研究センター水田農業試験場)の中場勝氏開発の酒米「雪女神」が、庄内の酒蔵に全国新酒鑑評会で、多くの最高賞金賞受賞をもたらしたように、各エリア連携に拠る未来形成が望まれている。可能性は無限である。高等教育機関が集約されている強みを活かし、庄内の篤実さを活かして、つながり合ってほしいものと願っている。

論説委員 東山 昭子



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