2024年(令和6年) 2月3日(土)付紙面より
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鶴岡市黒川地区で受け継がれている「黒川能」(国指定重要無形民俗文化財)の最大の神事「王祇祭」が1、2の両日、地区の鎮守・春日神社などで行われた。神の依(よ)り代を下ろした上、下の当屋では500年以上の歴史を持つ黒川能が真夜中まで演じられ、地元のほか全国各地から訪れた観客を神事能の幽玄な世界にいざなった。
王祇祭は春日神社の旧正月の神事で、同神社から神の依り代「王祇様」を上、下両座の当屋に移し、それぞれ1日夕から2日未明まで能楽で供応する。今年の当屋頭人は上座が難波玉記さん(81)=屋号・甚九郎、橋本、下座が遠藤重嗣さん(75)=屋号・重左衛門、宮の下=が務め、上座が黒川上区公民館、下座が遠藤さんの自宅で行われた。当屋の自宅に能舞台を備えるのは近年では珍しく、黒川能保存会が受け付けた観覧募集でも下座での観覧を希望する人が多かったという。
下座の遠藤さん方では、座敷などのふすまを外して能舞台と観覧席を設け、約80人が集まり、1日午後6時ごろから演能が始まった。黒川能独特の演目で地区の幼年の男児が演じる「大地踏」を秋山櫂璃(かいり)君(6)が務め、儀式能「式三番」に続いて、能の「大社(おおやしろ)」「箙(えびら)」「大瓶猩々(たいへいしょうじょう)」「弓八幡」、狂言の「禰宜山伏」「千鳥」「節分」が翌日午前0時半ごろまで繰り広げられた。会場には当屋の親類や地区住民をはじめ、外国人や県外の黒川能ファンが訪れ、ろうそくがともる中、連綿と受け継がれてきた神事能の世界を堪能した。江戸時代後半に下座の能役者から指導を受けたと伝わる、新潟県村上市の「大須戸能」(新潟県指定無形文化財)の役者・中山忍さん(52)は「当屋の自宅で黒川能を鑑賞するのは久しぶり。子どもや女性たちも活躍する王祇祭の神事能に触れ、黒川地区のすごさを改めて知った」と話し、食い入るように演能に見入っていた。
2日は春日神社で、上座の能「難波」、下座の能「大社」、両座立ち会いの「大地踏」などが奉納上演された。