2024年(令和6年) 2月7日(水)付紙面より
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庄内は食の宝庫で、しかも多彩さの中に歴史も息づいていることを裏付けるようである。端午の節句になくてはならない食の「笹巻」。その「笹巻製造技術」を登録無形民俗文化財とするよう、国の文化審議会が文部科学大臣に答申した。2021年に新設された同民俗文化財に登録されれば東北地方で初となり、新しい庄内が誇る食文化になる。
笹巻は草木の「灰汁(あく)」で煮て作るという独特な郷土食。灰の防腐効果や笹の殺菌性から戊辰戦争をきっかけに保存食にもなったとされる。そうした「発見・気づき」には、先人たちが経験則から学んだものであろう。笹巻はさまざまな笹の巻き方があり、芸術性も持ち合わせている。
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笹巻は水に浸したもち米を水切りした後、笹の葉で包んでゆで上げる。同じ笹巻でありながら地域によって包み方の形状が異なる。「三角巻き」には、平たい巻き方や、三角すい形の「こぶし巻き(げんこつ巻きとも)」があり、遊佐町などでは月山筍を連想させる細長い円すい形の「たけのこ巻き」がある。灰汁で煮た鶴岡・田川の笹巻は黄色であめ色をしている。
笹巻には、子どもの七つ祝いの際に特別に作られる大きな「祝巻き」もある。普通の笹巻では2枚ほど使う笹を、祝巻きは約40枚も使い、笹の葉を着物の襟を交互に重ね合わせるようにして巻く。三角すいだが、十二単を連想させるような豪華な作り。今では作られることはまれになったとされるが、昔はお祝いに来た客に、紅白の餅と一緒に持たせる習わしがあった。
それにしても煮汁に灰汁を使うのは、独特の食文化なのであろうか。栃の実のあく抜きには、現在は苛性ソーダを用いることもあるが、庄内では灰汁を使うことが多い。自然の恵みから得た木灰を使うという、半ば原始的とも思えるところに昔からの知恵があり、伝統的な食文化を支えてきたことになる。「灰汁文化」とでも言うか、将来に大事に受け継いでいかなければならない。
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以前、遊佐町で「笹巻きサミット」が開かれた。笹巻の伝統食を通して地元の食・産品の活用を図ろうとの狙いがあった。黒蜜やきな粉をかけて食べるのは素朴にも思えるが、それこそが郷土の味。
笹巻は庄内の大事な郷土料理であり食文化。端午の節句の頃に作られる季節性に加え、高齢化や手作りの面倒さから存在感が薄れてきているのではないかと危惧されている。産直施設などで季節を問わず販売されているが、人々が多く買い求めることで郷土の食文化伝承を後押ししたい。そのためにも、ぜひ登録無形民俗文化財の指定を待ちたい。併せて、庄内が誇る伝統食を子どもの世代から将来へと伝えてもらうため、「笹巻給食があってもいいのでないか」とは、飛躍し過ぎた考えだろうか。