2024年(令和6年) 3月3日(日)付紙面より
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東日本大震災の発生から今月11日で13年。修学旅行で昨秋、被災した宮城県南三陸町を訪問し、震災が残した爪跡を目の当たりにした酒田市の松原小学校(後藤司校長)の6年生67人が、「震災を風化させない」という強い気持ちでオリジナル劇「サボテンの花―東日本大震災を乗り越える」を創作した。29日に同校体育館で上演し、学区住民らが鑑賞。震災発生後に生まれた世代が受け継いだその記憶、そして「生きることの意味」をあらためて問う内容に終演後、拍手が鳴りやまず、児童たちはカーテンコールで応えた。
6年生は昨年10月5日から1泊2日の日程で南三陸町を訪問し、町防災対策庁舎など震災遺構を見学したほか、宿泊先となった南三陸ホテル観洋の従業員で町議、震災語り部を務める伊藤俊さん(48)から当時の話を聞いた。伊藤さんはこの際、児童たちに「酒田に帰ったら、多くの人に感じたことを伝えてほしい」と語り掛け。その思いに応え、6年生は同11月中旬の地域文化祭での上演に向け、震災を題材にした劇の創作に取り掛かった。
脚本を担当したのは齋藤ゆうびさん(12)。国語の授業で学んだ、故やなせたかしさん作の物語「サボテンの花」を基に、目の当たりにした惨状、伊藤さんの話、多くの人の心に響いた「語り合おう」「花は咲く」といった楽曲を組み合わせて約30分の劇に仕上げた。
主人公は町防災対策庁舎前に立っているという想定のサボテン。卒業を間近に控え、「平穏で当たり前の日常がいつまでも続く」と思っていた6年生の生活が「2011年3月11日14時46分18秒」を境に一変、津波が全てをのみ込んだ。片隅に残されたサボテンは、「忘れたいことを思い出してしまう。なくなればいい」とさえ言われたものの、「ここで花を咲かせて伝えていくことが僕の生きる意味」と決意する―というストーリー。
地域文化祭での上演は成功し、「より多くの人から鑑賞してもらいたい」と今回、さらに磨きをかけて「卒業記念公演」と銘打ち再上演した。
この日は伊藤さんも鑑賞に訪れた。黒い服装に身を包んで「津波」に扮(ふん)した児童たちがステージ狭しと暴れたり、楽曲では全員で声をそろえるなど熱演。終演後、会場に詰め掛けた観客からは大きな拍手が湧き起こった。
目頭を熱くした伊藤さんは「約束を守ってくれてありがとう。感謝の気持ちでいっぱい。つらい記憶だが、伝えていかなくてはいけない。再び会う日まで私は南三陸で頑張る。皆さんも中学校で頑張って」と。脚本担当の齋藤さんは「命の尊さを考えながら創作した。日常の大切さ、生きることの意味を考えるきっかけになった」と話した。
会場では、今年元日に発生した能登半島地震の被災者支援に向けた募金も行われ、多くの人が協力していた。