2024年(令和6年) 11月9日(土)付紙面より
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県知事選が2025年1月9日の告示(1月26日投開票)まで2カ月に迫った。まだ正式に立候補を表明した人はいない。吉村美栄子知事も態度を明かしていないが、5選出馬は半ば既定路線視されている。県議会最大会派の自民党県連の対応も不透明で、仮に無投票になるようなことがあれば、県民は県政を評価する機会を失うことになり、必ずしも健全な県政とは言えない。
吉村氏は衆院選公示後、自民党公認候補などの事務所を訪ねる異例の行動を取った。7月豪雨の激甚災害指定や、山形新幹線新トンネル整備への協力に感謝するためとされるが、知事選に向けた布石、あるいは保守候補擁立をけん制したとの見方もされている。
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吉村氏は09年1月、自民党が推した現職を破って初当選。続く13年と17年は連続で無投票当選、前回(21年)は自民党が推した元女性県議の候補を2倍以上の大差で破った。戦後の知事公選制度導入後の知事選での無投票当選は、1947年に安孫子藤吉氏が再選されたケースしかない。
旧民主党や日本共産党など、非自民系の支援を受けている吉村氏と自民党の関係は、必ずしも良好とは言えない。今年、吉村氏が提案した県産果樹情報発信拠点「フルーツ・ステーション」の整備案を、2年前に続いて自民党の反対で撤回せざるを得なかった。施設の目的が明確でなく、議会への説明不足もあったとされる。一方、知事選に向けた対決姿勢を鮮明にしたとも受け取られた。しかし、そうした動きも、衆院選さなかの事務所訪問で機先を制された感さえある。
県議会では過去、「吉村美栄子知事を支援する県議有志の会」ができ、自民党県議32人中22人が名を連ね、県議会がオール与党化したこともある。県民との対話、現場主義を重視した吉村氏の政治姿勢を評価するとしたほか、国政選挙で吉村氏が特定候補を支援せず、中立を保ったこともそうした動きにつながったとされている。
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吉村氏が立候補を表明し、もし無投票で5選されれば、過去5期務めた安孫子藤吉氏と板垣清一郎氏の2人と並ぶ。安孫子氏は1回無投票を経験しているが、吉村氏が3度目の無投票当選するとなれば、異例というより県政を評価し、選択肢を行使できない県民にとって不幸なことだと言えるのではないか。
首長の多選に対する批判はないのか、吉村県政4期16年の政策に対する総括はされただろうか。少なくとも5期のうち3回も投票による評価ができないとなれば、そうなった背景はどこにあるのか。県政への無関心か、それとも人材不足というようなことがあれば、山形で暮らす人々にとって悲しむべきことだ。「無投票でいい」と考えている県民ばかりではないと思うが。