2024年(令和6年) 11月16日(土)付紙面より
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マツが紅葉するはずがないのに、海岸線に近い県道沿いのクロマツが赤くなっている。庄内砂丘を象徴する景観の「白砂青松」を担うクロマツが「松くい虫」(マツノマダラカミキリとマツノザイセンチュウの総称)の感染被害を受けているためだ。被害を受けたクロマツは、感染拡大を防ぐため伐採されている。それも被害木が多過ぎて伐採が追い付かないのが現状のようだ。
クロマツを枯らす松くい虫による感染被害は全国的に広がっている。感染木を助ける有効な対策がないとも言われる厄介な病気だ。だが、何としても次の時代に庄内のクロマツ林を伝え残さなければならない。
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県庄内総合支庁によると庄内では1979(昭和54)年に松くい虫の被害が出始めた。2008年ごろに一時減少したが13年から再び増加に転じた。これまでの調査で、前年の夏、高温少雨となると、翌年に被害木が急増する傾向が見られるという。ここにも地球温暖化による気候変動が影響しているのだろうか。マツ枯れが全国的に発生している背景でもあるようだ。
今ある庄内の海岸林は、かつて荒涼とした砂丘地だった。江戸中期、製塩の燃料にするなどのため砂丘地の樹木が伐採されたことで荒廃した。このため、西風に吹き飛ばされた砂は田畑を埋め、家屋の中まで入り込んで人々の暮らしを苦しめた。今月10日、遊佐町の西遊佐まちづくりセンターで「佐藤藤蔵祭」があった。佐藤翁はクロマツの植林を始めたことで知られ、今あるクロマツ林は佐藤翁らから植林活動が長年受け継がれたことで築かれた砂防林だ。
庄内砂丘の海岸林は地域の共有財産であり、歴史的遺産を未来に残さなければならない。人工林や里山は人が手を加えないと荒廃すると言われ、「庄内海岸のクロマツ林をたたえる会」など多くの団体がクロマツ林の保全活動に携わっている。県森林研究研修センターでは害虫に強い「抵抗性クロマツ」の苗木を育てている。クロマツは10年で約3メートルに成長する。いずれ植栽されるだろう事が待たれる。
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庄内砂丘は鶴岡市から遊佐町まで南北33キロ、幅1・5~3キロ。約7000ヘクタールに500万本のクロマツがあるという。防風・砂防林だから密林状態でいいというものではなく、間伐で通気性を良くし、林全体に日差しを届かせることで丈夫な木が育つ。
今進められている松くい虫からクロマツを守る研究と保全活動は、風と飛砂に負けずに植林に挑んだ先人たちの闘いにも通じる。害虫に強いクロマツを育てて植林し、元気なクロマツ林を取り戻すという取り組みは気が遠くなる年月を要するに違いない。庄内海岸のクロマツ林は300年近い年月を経て築かれた。この遺産をぜひ子孫に引き継いでいかなければならない。先人の苦労に報いるためにも。