2024年(令和6年) 11月27日(水)付紙面より
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「ゾウを倒そうとするアリ」―と例えられた「鶴岡灯油裁判」。主婦が石油連盟と石油元売りの大企業を相手に、最高裁まで争った「損害賠償請求訴訟」である。確定まで15年の年月を要したが、結果は敗訴だった。北国で、冬の暖房に灯油は欠かせない。大企業が価格協定を結んで値段をつり上げたことで、庶民の暮らしは窮した。その裁判の提訴から、今月は50年の節目に当たる。
1974年11月22日に提訴した裁判は、一審で敗訴、控訴審で逆転勝訴、89年12月、最高裁で敗訴が確定した。原告は鶴岡生協(現生活協同組合共立社)の組合員1654人。全国初の「主婦たちの灯油裁判」と称され、消費者保護を大企業に求めた裁判だった。
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『ドキュメント 主婦たちの灯油裁判』の後書きに、次のような記述がある。「企業を基軸とした『企業社会』の中で、消費者・生活者の権利が踏みにじられていることを、灯油裁判は世に問うてきた」などと。灯油裁判は、日常生活で灯油がなくて困っていることを解決するということだけでなく、社会全体の問題として闘ったことに意義があったとされる。
北海道で72年に始まった灯油不足は、徐々に各地に広がり、73年には東北や関東まで拡大。さらに第1次石油危機となって、狂乱物価と、物不足を引き起こした。当時、灯油は18リットル約280円から同450円に跳ね上がった。トイレットペーパーや洗剤などを買い求める人々が、スーパーに長蛇の列を作った。50年も前のことであり、記憶にとどめている人も少数派になりつつあるのではないだろうか。
原告となった主婦たちが、不当な値上げ分として元売り企業に返還を求めたのは総額約390万円、原告1人当たり約2350円。生協から共同購入している灯油が値上がりし、品不足もあって主婦たちは一升瓶に分け合って寒さをしのいだ。今、その時のような生活を求めることは考えられない。しかし資源を大切に使う精神は持たねばならない。
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72年当時の18リットル=約450円と、現在の同2000円前後を単純に比較はできないが、雪国で灯油は米と同じで、なければ命に関わる点は今も同じだ。ただ、現在は化石由来の燃料を使うことが、地球温暖化の原因になっていることが問題視されている点で、大きく異なる。
鶴岡灯油裁判で、それまで裁判とは無縁だった主婦が、地裁鶴岡支部の前を埋め尽くした。一審で価格協定の一部は認定されたが敗訴、控訴審で逆転勝訴するが、最高裁は原告に損害の立証を求めるなどもあって、訴えは退けられた。消費者保護を訴えた鶴岡灯油裁判は提訴からちょうど50年。足掛け15年に及んだ裁判のことは、決して忘れてはならない消費者行動だった。