2025年(令和7年) 1月29日(水)付紙面より
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無投票の予想から一転して選挙戦になった県知事選は、現職の吉村美栄子氏(73)の5選で終わった。「初めから結果は見えていた」と言えば、敗れた金山屯氏(84)=福島県白河市在住=に失礼になるが、「県民に不利益になる知事選の無投票はあり得ない」との金山氏の姿勢は、候補者擁立を避けた自民党県連への批判も込められていたのではないだろうか。
政策論争を聞くこともできず、関心と争点に欠けた選挙だったことは、39・67%という、知事選では過去最低の投票率となって表れた。吉村氏の得票率約95%は“3度目の無投票”と言っていい選挙図式だった。半ば「信任投票」に近い状態で5期目を担う吉村氏の、県民の求めに応える責務はより大きいと言える。
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金山氏にとって究極の手作り選挙だった。選挙公報は約370文字の手書き。「18歳になられた皆さんおめでとう。あなたの一票で山形県の明日が決まります」と、選挙で投票することの大切さを訴えた。テレビの政見放送も、経歴を紹介するだけにとどめている。選挙事務所は構えず、自宅の白河市から新幹線で来県、山形駅前の街頭で通行人らに語り掛けた。
今回、自民党県連は野党系の吉村氏を支援した。もちろん初めてのケースだ。同県連は、自民党の派閥裏金問題の逆風、4年前の知事選で擁立した元県議がダブルスコアで大敗したことなどが尾を引いて擁立を断念した。また山形新幹線整備、昨年の豪雨災害の復興などの政策で、吉村氏と遠藤利明自民党県連会長(衆院山形1区)との協力姿勢が一致したためとされる。
夏に参院選がある。自民党県連は前回の知事選で敗れた元県議を立て、野党系は現職と新人2人の計3氏が出馬予定だ。県の参院議員は2人とも野党系。自民はその一角を崩そうと狙っている。そうであれば今回の知事選で候補者を立てて戦い、地盤を固めておくべきではなかっただろうか。衆院は県内3選挙区とも自民が占めている。知事選で候補者を見送った自民党県連の政治姿勢は、消極的と言われても仕方ない。
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知事選で山形大の学生らが山形市の大型商業施設で、東北初の「こども選挙」の模擬投票所を設けた。子どものころから選挙に関心を持ってもらい、有権者全体の関心を高める狙いがあった。しかし、金山氏は選挙で庄内入りすることはなく、吉村氏も後半インフルエンザに感染した。街頭に選挙が行われているという雰囲気はなく、選挙戦は低調なままだった。
金山氏は、当選が目的でなく、県民は次期県政を委ねる人の過去の行政実績を評価し、検証するために無投票は避けるべきだと述べていた。信任に近い形で当選した吉村氏も、重く受け止めなければならない言葉である。併せて5つの公約の具現化をより丁寧に説明する責任がある。