2025年(令和7年) 3月19日(水)付紙面より
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鶴岡市板井川の水無川で先頃、近くのくしびき南部保育園の園児たちが体長5センチほどのサケの稚魚を放流した。放流したのは約20万匹。子どもたちの「元気で帰ってきてね」の声に送られて川を下ったサケは、3~4年後、産卵のため再び生まれた川に戻って来る。サケのふ化・放流は昔から「育てる漁業の代名詞」と言われる。人手による漁業資源と食を守る大事な事業だ。
県内の河川ではサケを採捕、ふ化から放流というサケ増殖を手掛けている。中でも遊佐町の月光川水系は、国内でもトップクラスの放流数を誇るが、今季は河川への遡上(そじょう)数がこれまでになく少ない。気候変動による海水温の変化なども影響しているのではないかともみられている。
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県内の川や海で捕獲されたサケの数は、今年1月末時点で約5万2000匹余。今季の採捕数は過去30年で最も少なくなる見通しという。温暖化による海洋環境の変化が影響している可能性は高いと指摘されている。庄内沖で漁獲される魚種に変化が見られたり、北海道でもサケ漁の時期にブリが大量に水揚げされたこともあった。海の生き物は環境の変化に敏感で、わずかな海水温の変化が回遊域や回遊時期に影響するのだろう。
遊佐町の月光川水系でのふ化・増殖事業の歴史は古い。江戸時代からサケが遡上し、庄内藩も川をいけす状にして「種川」として自然産卵を手助けしたこともある。1908(明治41)年、同水系の資産家や農家の人が組合をつくったのが、現在の「箕輪鮭漁業生産組合」につながった。
ふ化した川から海に下ったサケの稚魚は、オホーツク海やベーリング海などを回遊し、子孫を残すため再び放流された川に戻って来る。5センチほどだった稚魚が、成長しても生まれた川を忘れない「母川回帰」の生態には、何らかの方法で川の特徴が脳細胞に刻み込まれているとか、体内時計のような太陽コンパスを持っていて川の「におい」をかぎ分ける、などとの説がある。いずれにしても、そうした習性を持つサケは人の食生活にとってありがたい存在。
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月光川水系のふ化場では過去、ふ化事業の先進地とされた新潟県・三面川での採捕が不漁だったことでふ化卵を提供し、新潟県知事から感謝状をもらったこともある。また、北海道沿岸の海で水揚げされるサケに、月光川水系で放流したサケが多い事で感謝されたこともある。
サケ捕獲数の不振は山形県だけでなく、本州全体が似た傾向にあるとされる。その背景になっている要因として、記録的な暑さの影響などによる「海面水温の上昇」があると考えられる。人の暮らしの利便性は高まっているが、それによって環境に負荷を与えていることの一端が、サケの遡上数減少から見えてくるようである。