2023年(令和5年) 8月26日(土)付紙面より
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鶴岡食文化創造都市推進協議会(会長・皆川治市長)主催の在来作物試食会が24日、鶴岡市小国のふる里ふれあい村・楯山荘(旧小国小学校)で行われた。同市温海地域で栽培されている「與治兵衛(よじべえ)キュウリ」と「早田ウリ」の新たな活用方法を探るため、同地域の飲食店やホテルなどが考案した料理の数々が披露された。
ユネスコ食文化創造都市・鶴岡ならではの取り組みとして、郷土料理や在来作物、伝統的な食文化の伝承に係る事業の一環で、在来作物の新たな活用方法を探るためレシピ考案と継続的な需要創出を目的に、今回初めて企画した。
試食会には生産者や小国地区の住民、推進協事務局の市職員、山形大農学部の大学院生など約30人が出席した。
料理を考案したのは▽たちばなや(宿泊業、湯温海)▽足湯チットモッシェ(飲食店、同)▽きっちんふーずカスミヤ(同、同)▽民宿・咲(宿泊業、鼠ケ関)▽しおさい荘(同、同)▽本間菓子舗(菓子店、湯温海)―の6店で、いずれも推進協の在来作物マッチング事業で與治兵衛キュウリと早田ウリのペーストが無償提供された。また、以前から與治兵衛キュウリを使ったメニューを提供している料理店manoma(鶴岡市朝暘町)もゲスト参加した。
今回披露された料理は、素材の味を生かしたもろきゅうをはじめキュウリとそばを合わせたのり巻き、ウリの果肉が入った自家製レモンスカッシュ、ライスバーガー、ウリのクリームスープなど。それぞれのメニューについて料理人たちが「生クリームと牛乳を使った濃厚なプリンとさっぱりしたウリソースを合わせた」「キュウリの食感と香りを楽しめるよう工夫した」などと解説した。
試食した山形大大学院1年の石川央渡(おと)さん(22)は「在来野菜のキュウリ、ウリとも初めて食べた。量販店で買えるものと違って食べ慣れていないこともあり、素材の味が一番分かるもろきゅうが鮮烈だった」、與治兵衛キュウリ生産者の五十嵐敏也さん(67)は「どのメニューもそれぞれ料理人の感覚が出ている。地元の女性にこうしたレシピを知ってもらい、昔からの食べ方だけでなく新しい可能性が広がるようにしたい」とそれぞれ話していた。
最後に山形大農学部の江頭宏昌教授が「キュウリ、ウリとも爽やかさ、香りを生かした作り方をさらに模索する必要がある。消費拡大のためには一般家庭で食べられる手軽なレシピも開発しては」と講評した。
在来野菜の試食会は来年度以降、朝日や櫛引など市内各地域でも開催する方針という。
〈與治兵衛キュウリ〉
鶴岡市小国地区で栽培されている。大正期、小国の五十嵐與治兵衛家に温海・峠ノ山から来た婿が養蚕と桑の栽培法を学ぶため、現在の新潟県村上に通った。そこでキュウリの種をもらい受け、代々門外不出の野菜として受け継がれてきたとされる。
長さは20センチ余り、太さ7センチほど。半白で白いイボがあり、完熟すると太さはビール瓶ほどになる。つる首付近にやや苦みがあるが、非常にみずみずしく濃厚な味と香りを持つ。
小国地区ではもろみやみそを付けて食べるほか、なますやサラダなどほぼ生食。みそを氷で溶き、薄切りのキュウリを浮かべた「冷や汁」は同地区の夏の伝統料理という。現在、小国地区で5人が生産している。
〈早田ウリ〉
同市早田地区で栽培されている。10条のしまと5つの心皮(種が入っている部屋)を持つマクワウリ。メロンのような風味と食感を持ち、果皮は銀色に光る。
在来野菜の伝承のため2011年に「早田ウリ保存会」が設立された。21年から鼠ケ関小の協力を得て児童たちと一緒に栽培を進めており、同年は150株を植えた。現在の保存会メンバー18人。
実は熟すとヘタから自然に外れるため、収穫は拾うだけと手が掛からない。早田地区の道の駅あつみ「しゃりん」のみで販売しており、特に早田ウリのアイスクリームは一年を通して販売されているほどの人気商品。主に生食で扱われ、ジュースやゼリー、シャーベット、カクテル、漬物などのレシピが開発されている。