2025年(令和7年) 3月29日(土)付紙面より
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酒田市に新しいにぎわいを生み出す商業施設が27日、オープンした。旧県立酒田商業高校跡地を再開発した「いろは蔵パーク」。名称は酒田の歴史に由来する。新商業施設は新内橋を渡って山居倉庫と隣接、相互を行き来することでの相乗効果の高まりにつなげたい。
酒田商業高は1907(明治40)年創立の酒田尋常高等小学校付設商業補習学校を前身とし、2012年、市内の高校の統合で105年の歴史を閉じた。商業の街・酒田を支えた多くの人材を輩出した学校であり、その跡地を活用していることで、人材を育てたのと同様、新しい市の活力が生み出されるだろうことへの期待が膨らむ。
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「いろは蔵」とは、ユニークに聞こえる名称だ。新商業施設の場所には江戸時代に米倉庫群「新井田蔵」が軒を連ねていた。蔵には「戸前」(土蔵の入り口の戸)が48あったことで、別名「いろは四十八蔵」とも呼ばれ、コメの集散地として栄えた酒田の象徴的存在。新商業施設の名称も往時の繁栄ぶりにあやかり、併せて「パーク」としたのは、商業活動だけでなく市民の憩いの場として愛してほしいとの願いを込めた。
新しい商業施設は平屋建ての2棟からなり、27日オープンしたA館には山居倉庫から移転する酒田観光物産館・酒田夢の倶楽、酒田の海産物と郷土食を提供するイカ恋食堂ごはん亭、東北最大規模の売り場面積となる無印良品などが入り、4月18日にオープンするB棟にはスーパー・ト一屋などが入る。A館とB館の中央には旧酒田商業高のシンボルだったケヤキの木が残され、施設のロゴマークにもなった。
いろは蔵パークは「一点完結型」の施設でなく、他施設との回遊性を持たせることで機能がより生きるのではないか。酒田市中心街には歴史的資産であり、観光の目玉となる▽山居倉庫▽本間家旧本邸▽旧鐙屋▽本間美術館―などがある。中心街から日和山公園を経て酒田港の海鮮市場へと通じ、港に隣接したコンテナホテルも港町ならではの施設であろう。
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江戸時代にあった新井田蔵は、1893(明治26)年に完成した山居倉庫(後に国の指定史跡)に比べるとなじみが薄い感がする。しかし、かつては舟運による庄内米集散の拠点となってきたことで、いろは蔵パークのオープンは、商業活動だけでなく、歴史を再認識する場所にもなりそうだ。
人口減少に加え、中心市街地の空洞化も進んでいる。いろは蔵パークのオープンが酒田市の元気づくりの起爆剤になってくれることを願いたい。そのためには、物珍しさ的に、一時的なにぎわい創出で終わらせることなく、市民は何度も訪れて施設を利用することこそが肝要だ。山居倉庫と一体化した酒田らしさの経済と文化の拠点とするためにも。