2008年(平成20年) 1月13日(日)付紙面より
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鶴岡市の慶應義塾大先端生命科学研究所(冨田勝所長)と、国立長寿医療センター研究所(愛知県、田平武所長)の滝川修省令室長のグループは、メタボローム解析技術を応用し、血液や尿などからアルツハイマー病の生態情報を示す物質(バイオマーカー)を見つけ出す共同研究に着手する。アルツハイマー病特有のバイオマーカーが発見できれば早期診断、治療につながることが期待される。11日、両研究所が鶴岡メタボロームキャンパスで記者会見し、発表した。
現在、アルツハイマー病診断の一つとして、脳に蓄積するアミロイドタンパクを陽電子放出断層撮影(PEТ)する画像診断方法がある。しかし、PEТ装置は1台数億円と高価で導入している医療機関が少ない上、発症が疑われる段階で診断することが多い。早期の発見に課題があり、簡単で安価な診断方法の開発が望まれている。
共同研究では、慶應先端生命研の曽我朋義教授らの研究グループが開発し、一度に数千個の代謝産物を定量解析できるキャピラリー電気泳動―質量分析計(CE―MS)によるメタボローム解析技術を応用する。
アルツハイマー病を発症したマウスと健常なマウスの血液や尿、脳組織を測定、比較するなどし、アルツハイマー病特有のバイオマーカー(低分子代謝産物)を見つけ出す。
さらに、発症前の変動や軽度認知症からの移行過程で変動する代謝産物の測定もできれば、早期診断、予防法や治療薬開発に有用となる。また、同医療センター研究所などが開発しているワクチンの治療効果の判定にも活用できるという。
研究期間は5年以内をめどとする。マウスによる解析を1年ほど行った結果を踏まえ、アルツハイマー患者の血液や尿サンプル分析に移行する。
アルツハイマー病などの代謝異常の研究ではこれまで、代謝産物の分析は数種類が限界となっていた。CE―MSを活用することで、従来の分析法と比べ数十倍の速さで測定でき、代謝変動の全体を網羅的に調べることが可能となった。
記者会見で、慶應先端生命研の冨田所長は「患者の血液、尿をメタボローム解析して健常者と比較することで、患者が持つバイオマーカーを発見できれば、健康診断などでの診断が期待される。早期診断法を世界に先駆けて確立したい」と抱負。
また、同医療センター研究所の滝川室長は「アルツハイマー病など認知症はいかに早く手を打つかが鍵。特に患者に苦痛を与えず測定できる尿中のアルツハイマー特有のパターンを見出したい。予防や治療薬の投与時期、薬の開発も可能になる」と期待を述べた。
アルツハイマー診断法開発に向けた共同研究を発表した滝川室長、冨田所長、曽我教授(左から)