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2009年(平成21年) 7月8日(水)付紙面より

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庄内浜のあば 悲哀と快活と歴史と ―18―

百年続く浜文化の符諜

競り人の権威

 「カギ棒」は、魚に値を付け、浜市場の進行を担う、競り人の権威の象徴だ。競り人の大事な仕事は、初値を付ける事から始まる。山形県漁協由良支所の競りは「下げ競り」で行われる。高値から順次値を下げていき、仲買人らの声を待つ。

 どの魚介類でも同じことだが、今の相場よりやや高めの値から競りを始める。魚の状態と水揚げ数量、数日来の市場相場、数年来の同魚種の価格動向、明日以降の漁模様(天気)などから総合的に判断し、いくらから始めるか、短時間で決める判断力が求められる。

 競り人歴32年の由良支所の佐藤研さん(50)によると、下げ競りは魚が新鮮なうちに早くさばき切る知恵でもあるが、ただ売ればいいのではなく、真っ先に考えるのは漁師をもうけさせること。少しでも高く売れば漁師にやりがいを持たせ、沿岸漁業を守ることにつながるからだ。

 そのためにも、あばや仲買人がいくらぐらいの買値(値踏み)をしているか、表情を見ながら臨機応変に値幅を変えていく。佐藤さんらの競り人には、長年の顔見知りである買い手の心理を読み取る技量が求められる。

人を探る余裕なし

 県漁協念珠関支所では由良と違い、木製の入札板(横30センチ、縦20センチ)に金額を書き込む形式で行われる。書き込む金額は数字ではない。「イ、△、/」といった記号の符諜(ふちょう)の組み合わせを入札板に書き込む。記号は表の通りで、読み方は由良支所(前回記事)と同じだ。

 床に並んだ魚の前で、何人ものあばたちが入札板にチョークで符諜を書き込む。1回の入札が終われば前の符諜を消して別の魚の値を書く。この繰り返しが夜遅くまで続く。

 鶴岡市鼠ケ関の五十嵐富美恵さん(90)。87歳で引退するまで50年も続けた入札での、あばたちの様子を次のように話す。

 「入札は皆が一生懸命だ。互いの肩が触れ合う距離で書いているから、隣を見れば符諜を読み取ることはできるが、入札板を隠すようにして書き込む人もいなければ、のぞき込むような人もいない。マナーであるが、それ以前に皆必死だから人の入札板に目をやる余裕などない」と。

日常も符諜で会話

 入札板には、「出羽」「縄屋」などという屋号が大きな字で書き込んである。五十嵐さんの屋号は「フミ」で通用している。

 符諜は普通の人に浜値が分からないようにするための値段の隠語だが、五十嵐さんは「符諜を使うのは市場だけではなく、行商の行き帰りの車内でも『テンだぜ』『ガリで買ったぜ』との会話にも出てくる」と話す。前日の仕入れ値を情報交換することで、次の競りの参考にするのだ。

 符諜は、元値を知られないための市場用語というが、仮に数字と符諜を暗記したとしても、競り人の口から機関銃のように飛び出す符諜を、素人が聞き取って理解することはまず難しい。

 符諜は、浜市場の文化でもあるのだ。

(論説委員・粕谷昭二)

魚を見定めながら、入札板に符諜を書き込む五十嵐富美恵さん=県漁協念珠関支所で、昭和50年代(左) 競りが始まる直前、船から揚げたばかりの魚を仕分けする漁師たち=県漁協由良支所
魚を見定めながら、入札板に符諜を書き込む五十嵐富美恵さん=県漁協念珠関支所で、昭和50年代(左) 競りが始まる直前、船から揚げたばかりの魚を仕分けする漁師たち=県漁協由良支所



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