2009年(平成21年) 8月20日(木)付紙面より
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米アカデミー賞外国語映画賞を受賞した映画「おくりびと」のロケ地の一つで、鶴岡市中心地にある銭湯「鶴乃湯」が今月中にも廃業する見通しであることが、19日までに分かった。10年おきに更新してきた風呂釜が老朽化し、経営する三谷政弘さん(72)、享子さん(67)夫妻も「これまで頑張ってきた」と店を畳む気持ちが強いため。「おくりびと」効果で観光スポットとなっていただけに「何とか残したい」という声も上がっている。
鶴乃湯は1941(昭和16)年、政弘さんの母親が開業。43年には戦争で東京に働きに出ていた父親も経営に加わり、46年ごろには市内で初めてタイル張りの浴槽となった。現在も地下水をくみ上げ、まきをくべてお湯をたいている。
享子さんによると、風呂釜は10年ごとに更新してきた。しかし、現在使っているものは11年目。水漏れなど傷みもひどく、「毎日沸かすだけでも大変。今月いっぱい持つか持たないか」(享子さん)という状態。風呂釜の新設には400万円かかる。
映画「おくりびと」では、主演の本木雅弘さんが幼いころから通っている友人宅の銭湯という設定で、本木さんが入浴するシーンなどが撮影された。アカデミー賞受賞後は県内外から訪れる人が増えたが、「ただ見て帰る人も多い」(享子さん)と実質的な利用客の増加にはあまりつながらなかった。
18日午後、帰省中の孫とともに訪れた近くの男性(84)は「ゆっくり入りたいときに利用している。市内から銭湯が1つもなくなるのは寂しい」と話した。一方、「おくりびと」の庄内ロケをプロデュースした庄内映画村の宇生雅明社長は「『おくりびと』の代表的なシーンのロケ地となっただけに、非常に残念に思う。なんとか今後も残していけるような手立てがないか考えている」と話している。
県保健薬務課によると、県内に256カ所ある公衆浴場のうち、銭湯の分類となる一般公衆浴場は鶴乃湯と山形市にある1軒のみ。
今月中にもで廃業する見通しが強い鶴乃湯。常連客には惜しむ声が広がっている