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2010年(平成22年) 2月10日(水)付紙面より

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森の時間 25 ―山形大学農学部からみなさんへ―

雪と森林 小野寺 弘道

 昨年の師走に庄内地方は集中的な大雪に見舞われ、その様子がテレビで全国に報道されたことは記憶に新しいことと思います。果樹や庭木、公園の樹木が多量の雪の重みで折れるなどの被害が発生しました。雪は森林や人間の生活を制限あるいは阻害する厄介者です。ところが、森林は雪の影響を一方的に受けるだけでなく、雪の環境に適応し、雪の環境に影響を与える働きをしています。実は、人間はそのような森林の働きを利用し、雪国での安全で快適な暮らしを享受しているのです。

 雪国の山間部に優占する樹種にブナがあります。ブナは最も雪に強い樹種といわれていますが、どのような仕組みで強いのかはよくわかっていません。ブナは地面にたっぷり雪が残っている早春に冬芽を解き葉を展開します。他の広葉樹にはこのような真似はできません。開葉したての柔らかな若葉は遅霜の被害を受ける可能性があります。ブナにとって霜害のリスクを背負ってまで開葉する利点は何なのでしょうか。

 月山山麓には5メートルを超える積雪がみられ、見事なブナ林が広がっています。あまりにも雪が多いのでブナしか生育できないのです。5月の中旬にブナ林を訪れると、もうすでに開葉していて雪面に木陰を作り、小さな湖には雪解け水が青々と満ちていました。林内に足を踏み入れると雪面が赤く染まっていました。雪もみじの仕業です。雪もみじの材料はブナの葉を冬の寒さと乾燥から守るために覆っていた芽鱗です。つまり、冬芽を解くときに雪面上にばらまかれた芽鱗が雪もみじです。雪面を覆った雪もみじは春の日差しを遮ります。

 雪があるうちからの開葉、そして雪もみじ…。これは私たちにとっては素晴らしい利点なのです。なぜなら、展開した葉と雪もみじが融雪を遅らせてくれるからです。もし、積雪のある期間に開葉がなければ、春の強い日差しは雪を急激に解かし、雪解け水は一気に川を下り海に流れ込んでしまいます。雪国の川の年間流出量の半分以上は雪解け水であるといわれています。

 雪は貴重な水資源です。雪解け水は水田を潤し稲を育ててくれますが、それが春先に一気に流れ下ってしまうのでは、必要な時期に利用できないだけでなく、洪水の原因にもなります。ブナ林の融雪遅延効果は重要な水源涵養機能です。ブナ林は冬に雪を捕捉し、春に雪解けを遅らせ、厚く堆積した落ち葉と土壌の働きによって融雪水を地中に浸透させ、水をゆっくりと流出させ、濁りのないおいしい水を私たちに提供してくれます。

 かつて、森林の多面的な働きのうち木材生産が重要視された時代がありました。ブナはスギと異なり幹が曲がりくねっており、扱いが厄介だったこともあり、奥地のブナまで伐採され、跡地にスギが植えられました。漢字で木偏に無と書かれ、ブナ退治という言葉まで生まれました。月山山麓の伐採を免れコケむしたブナたちは、このような人間の都合の変化をどのような思いでみているのでしょう。

(山形大学農学部教授、専門は森林雪氷学および流域保全学)

朝日連峰/大鳥池にて 残雪のなか芽吹き始めたブナ林=自然写真家・斎藤政広(2008年6月3日撮影)
朝日連峰/大鳥池にて 残雪のなか芽吹き始めたブナ林=自然写真家・斎藤政広(2008年6月3日撮影)



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