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2011年(平成23年) 8月16日(火)付紙面より

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森の時間43 ―山形大学農学部からみなさんへ―

師匠のスケッチ、葉脈の知恵 小山 浩正

 かつての上司で、私の研究と作文の師匠である菊沢喜八郎先生(現・石川県立大学教授)はスケッチも達者で、自らの画集を出版するほどの腕前です。マレーシアで企画されたジャングルの調査に同行した時も、わずかな暇を見つけては珍しい植物や街の風景を描いておられました。弟子の私も真似してはみたものの、とても師匠のようにいきません。それでも、改めてスケッチの効用を知る機会になりました。模写をすると細部にまで注意がおよび、眺めているだけでは気づかない発見をすることがあるのです。

 北海道から庄内に赴任した当初は知らない低木が多くて戸惑いました。教える立場になったのにこれではマズイ。そこで、先輩教員の林田光祐さんが担当する野外実習に飛び入りで参加させてもらい、当時の学生と一緒にサンプルを採取しては葉のスケッチをはじめました。描き始めると自ずと葉脈にも目が行き、その多彩なパターンに魅せられます。例えば、ブナは太い葉脈が真ん中を走り、その脇から魚の骨のように一定の間隔をおいて二次的な葉脈が派生しています。一方、カエデは付け根からいきなり四方に放射するのです。どちらにしても、その先にはさらに細い葉脈が派生して、その次ぎはもっと細かいのが散るよう消えてゆくのです。葉脈とは、葉で作られたデンプンを樹体に運び、逆に根が吸い上げた水分や養分を葉の細胞に供給するための、いわば連絡路。その連絡に最も適した配線パターンが長い進化の過程で洗練されてきたのでしょう。

 ならば、この葉脈パターンを私たちの生活にも活(い)かせないものでしょうか。例えば、都市計画や物流への応用です。改めて葉脈見つめると、住宅地に張り巡らされた道路網と似てなくもない。幹線から派生した道がさらに枝分かれして各戸に至るのは葉脈と細胞の関係と変わりがありません。どちらも物資が万遍なく各戸(細胞)に届かなければならないのです。おそらく、電線や上下水道の敷設、そして被災地への物資供給など、面を線で覆うロジスティクス(兵站)は同じ制約に支配されているのではないでしょうか。日本の林業の課題として、林道や作業路などの路網整備があるのですが、山腹という面に林道という線を効率良く張り巡らせるのにも葉脈パターンが参考になるかもしれません。

 双方向で連絡するのは物資だけでなく情報もまた同じです。建築家の磯崎新は、都庁建設の請負コンペで師匠の丹下健三に敗れますが(師匠はどこでも強いなぁ)、彼が提案した構想はすこぶるユニークでした。今、新宿にそびえるあの超高層ではなく、あえて低層型にすることで各部局の連絡が横断的かつ網目状につながり、縦割り行政の弊害を屋舎の構造から打破する目論見だったそうです。この案は当時流行した現代思想のキーワードを援用して「リゾーム(地下茎)構造」と呼ばれましたが、その意図から考えると「ベイン(葉脈)構造」と呼んだ方がしっくりきます。都庁では実現しなかった磯崎のベインが「ブナの葉型の庁舎」とか「ケヤキタイプの水路」、あるいは「ナラタイプ道路のニュータウン」として活かされたなら素敵じゃないでしょうか。まさに、森林文化都市の誕生です。

(山形大学農学部教授 専門はブナ林をはじめとする生態学)

キバナアキギリの葉です。葉脈の特徴を見つめてみましょう。荒倉山にて=自然写真家・斎藤政広
キバナアキギリの葉です。葉脈の特徴を見つめてみましょう。荒倉山にて=自然写真家・斎藤政広



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