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2012年(平成24年) 1月2日(月)付紙面より

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震災に思う「幸福観」


震災に思う「幸福観」

荘内日報社社長
 橋本 政之

新年明けましておめでとうございます。皆様には日ごろ「荘内日報」をご愛読、ご利用いただき誠に有り難うございます。新年にあたり、改めて深く感謝申し上げます。
昨年の「3・11」のとき、東京駅の新幹線ホームにいました。北海道から沖縄まで11紙が加盟する全国郷土紙連合の会合の帰途。目の前の白い車両は巨大な龍が身をよじるように震え、頭上の照明が外れました。
ようやくつながった公衆電話の向こう、鶴岡市の本社は新聞発行時刻でしたが、停電もなく輪転機はいつも通りに回ったとの報告。安堵したものの、大混乱の首都で身動きできない側には能天気にも聞こえました。
もしや上野発の夜行が走りはしまいかと思い、山手線の高架に沿って寒く暗い中を歩くと、途中駅の街頭テレビから陸前高田市や南三陸町が「壊滅的被害…」と聞こえてきました。「市や町が壊滅? 大げさな…」。たどりついた上野駅舎はシャッターが閉ざされ、群衆がごった返し、後に批判にさらされた光景です。ホテルを探しても無駄、帰宅難民です。
踵を返して東京駅に戻り、地下の構内で一夜、上越新幹線の復旧を待ちました。携帯電話はバッテリー残量が気になりワンセグもままならず、「壊滅的被害」の意味がよく理解できないままでした。 
翌日午後、復旧したJRを乗り継ぎ、発生から三十数時間で着いたわが家で新聞やテレビを目にし、「壊滅的被害」という表現が、現実を伝えきれてはいないものの、決して大げさではないと分かりました。
一昼夜の非日常の疲れが抜けるのとは逆に、時を追い深刻度が増す東京電力福島第一原発事故の報道に、悪寒が走りました。「日本の国力はこんな程度か」。あまりにもお粗末な言動に、「中枢の崩壊」の現実を見た思いでした。
福島第一原発事故は世界が経験したことがないものではあっても、「まさか」は必ず起こる、という典型ではないでしょうか。庄内からは直線距離で200キロ前後、地球儀で見れば至近です。
間もなく10カ月。「何も復興していないに等しい」「この状態が10年は続くことは覚悟しているが、どうしたら回復できるのか見当もつかない」。昨年暮れに聞いた被災地の経営者のつぶやきです。東日本大震災は、日本の社会のあり方や生き方も問い直しているようにも思います。
「生まれた土地で暮らし続けられることが人間にとって最高の幸せ」。鳥海山の麓の旧家に生まれ、今も暮らす新田嘉一・平田牧場会長が、起業家、実業家とし「日本一うまい豚肉」を目指しながら、いつも心に抱いてきた「幸福観」です。
「平田牧場」は年末、ニューズウィーク日本版の特集「日本を救う中小企業100」(12月7日号)にも名を連ねられました。東北6県からは16社。食の安全確保、食料自給率向上への取り組みが評価されたものです。
そうした実業の第一線から離れてしばらくたちますが、地域課題への取り組みに多忙を極め、生まれた土地・庄内に惜しみなく心血を注がれています。今年で傘寿。地域のけん引役して、さらに意気軒高とお見受けし、謹んでお祝い申し上げます。
庄内のくくりは、旧庄内藩主・酒井家の歴史と重なります。戦国の世に家康に仕えた酒井家初代・忠次は徳川四天王の一人に数えられ、両家の交わりは450年を超えます。そのまま「庄内」の歴史です。
一昨年の致道博物館創立60周年記念で、徳川宗家18代の徳川恒孝(とくがわ・つねなり)徳川記念財団理事長が「江戸時代を支えた日本の心」と題して講演。華やかな元禄時代のバブルがはじけた後、8代将軍・吉宗が「質実剛健」「質素倹約」を奨励し、「経済成長が止まっても、豊かな心で、仲良く暮らしていく社会。そうした江戸が持っていた心を一番強く残しているのは、この『庄内藩』ではないかと思う」と話されました。
鶴岡市加茂の小高い寺に眠る茨木のり子さんの詩「時代おくれ」の一節です。
《…(略)…ふっと/行ったこともない/シッキムやブータンの子らの/襟足の匂いが風に乗って漂ってくる/どてらのような民族衣装/陽なたくさい枯草の匂い/何が起ろうと生き残れるのはあな
たたち/まっとうとも思わずに/まっとうに生きているひとびとよ》
ともにヒマラヤ山麓の地。昨年11月に新婚の若き国王夫妻が来日したブータンは、経済指標よりも国民の幸福感を重視する国民総幸福度(GNH)で知られています。国王夫妻のさわやかな笑や穏やかな立ち居振る舞いに、GNHが改めて脚光を浴びました。
「生まれた土地に暮らし続けられる幸せ」を、GNHの指標とすると、震災後の社会の在り方や生き方の道標が見えてくるのではないでしょうか。
2012年、平成24年の干支は壬辰(みずのえたつ)、十二支で唯一、架空の生き物です。龍の神「龍神」を祭る鶴岡市の善宝寺はご縁年です。龍神講は東日本、北海道に広がり、「海の神様」を信仰する人々の被害はことのほか甚大で、五十嵐卓三住職は被災地を行脚されました。
物の本に「壬辰」は「龍の背に乗って天を駆け巡るように猛々しく行動的な干支」「今までに無い大きな変化の波が激しく押し寄せる、波乱に満ちた一年」「キーワードは激動、変革、刷新」「小手先で済ませず、一度、徹底的に大掃除してからものごとを構築するような大変革の年」などとあります。
壊滅した被災地や原発事故避難区域でまっとうに生きてきた人たちが、「生まれた土地で暮らせる幸せ」を得られるために、崩壊した日本の中枢を根本的に再構築する方が、急がば回れ、とも思えます。国民が選ぶ権利が行使できる年になればと思います。
弊社は日刊「荘内日報」を中心に月刊フリーペーパー「敬天愛人」、地域課題を取り上げた特集号などをフルカラー印刷で発行しています。本年も「庄内は一つ」の創刊の理念の下、「時代をつなぎ、地域をつなぎ、心をつなぐ」を郷土紙の使命と心得、さらに精励いたします。変わらぬご愛顧をお願い申し上げます。

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