2012年(平成24年) 2月14日(火)付紙面より
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月山での雪遊び 野堀 嘉裕
2月初めの一番寒いころの日曜日に家族5人で月山に遊びに行った時の話です。若葉町の官舎から車で出発し、次第に雪が深くなってくる国道112号線を山形に向けて進み、月山第一トンネルの手前の駐車場に到着しました。ここは除雪車が方向転換するためにいつでもきれいに除雪されています。一般車も立ち入ることができてトンネル脇には公衆電話ボックスがあります。除雪車の邪魔にならないように車を置いて、遊び支度を始めます。家族全員スキーの格好です。子供たちは肥料袋を持ち親は靴にカンジキを付けてスコップを持ちます。
駐車場の奥には積雪深を観測する柱が立っており3メートル以上の雪が積もっていることがわかります。この柱を大きく迂回(うかい)するようにしてスコップで雪に階段を付けながら登っていきますが、少し登ると胸まで雪に埋まるようになります。子供たち3人は泳ぐようにして登ってきます。トンネルの上まで登って葉の落ちたカラマツ林を過ぎ、ブナの原生林に入るまでに1時間はかかりますが、展望が開けるようになり、車の音も聞こえなくなってきます。鉛色の空からは上から下から大粒のアラレが降り注いできますが、これから雪遊びの本番です。 斜面が緩くなって滑らなくなってしまうような場所を探します。そこから斜面の上に向けて直線で20メートル程の雪滑りコースを作ります。何のことはありません、始めに私が尻滑りして次に家内が続きます。子供たちはもう待ちきれません。肥料袋を尻に敷いて滑り始めますが、体重のある親が滑った跡を外れることはまずありません。雪滑りコースの脇に階段を作って登り何度も雪滑りを繰り返します。次第に肥料袋は不要になり全身で滑降するようになります。滑りながら体を回転させるのは面白いのですが、コースを外れてしまって木の根元に吸い込まれてしまうように落ちることがあります。なかなか脱出できないのでみんな大笑いしながら救出します。
1時間程遊んだ後には一休みの時間です。家内がリックサックから魔法瓶を取り出して温かいお茶を飲みます。木々の梢を渡っていく風の音が轟々と響き、人里から隔絶された厳寒の山の中に放り出されたような雰囲気になります。子供たちにはここが極めて危険な場所であることを教えなければなりません。国道112号線が開通していなければ、マタギでもない私たちはこんな場所にたどり着くことすらできません。何時遭難してもおかしくない場所なのです。もし遭難したとしても誰も遭難したことに気が付かないような山深い場所なのだということを理解しなければなりません。世界でも例のない豪雪地を横断する国道があってこそできる冬の遊びなのです。全身雪だるま状態で駐車場に下りてくると車の屋根に30センチメートル以上の雪が積もっています。駐車場にいた別の車の人が下りてきて、どこから来たのですかと尋ねられました。鶴岡市内から来ましたと答えると怪訝(けげん)な顔をして車に戻っていきました。どういう意味の質問だったのか考えてしまいます。
家に帰ってゆっくり風呂に入るとさっきの雪遊びが別世界のように感じられます。子供たちは来週も行こうよと声をそろえて提案していますが、そう簡単には行けないんだぞと言い含めておきます。一風変わった冬の遊びを紹介しましたが、あまりお勧めはできないかもしれません。
(山形大学農学部、専門は森林情報学)