2012年(平成24年) 4月10日(火)付紙面より
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「森の時間」で「森のじかん」 ―森のソムリエの本ができました― 小山 浩正
「焼き畑ねぇ、あれは自然破壊じゃないの?」あるプロジェクトを構想して、霞ケ関で説明をした時に強面(こわおもて)の官僚に言われたひと言です。想定外の指摘に私はしばし言葉を失いました。なんとか誤解を解いたものの、こちらには自明すぎることに疑念を投げられると、どう説明したものか瞬間的に思考停止になったのです。なんとも情けない。でも、あえて棚にあげてお尋ねします。もしあなたなら、どのように説明しますか? 庄内人なら誰もが知っていて、無言で理解しあえることだからこそ、異文化の人種に言葉で説明するのは難しいように思えます。
さて『森の時間』の連載も今年で6年目を迎えます。それに先立ち始まった森歩きのイベント『つるおか森の時間』は7年、ドイツをはじめ各国への『森の旅』も7年続いています。その間、多くの方からコメントを頂戴し、知り合いも増え、一緒に森も楽しみました。今後も続けていきたい企画です。同時に、そろそろ次のステージもあって良いかと考えています。それは、多くの人々が「自ら森を語る」ステージです。
この連載で、私は何度か里山に手を加えること、つまり「攪乱(かくらん)」の重要性を述べてきました。お爺さんの柴刈りも攪乱であり、それが生き物の多様性を守ってきたこと。そうした里山利用の低迷が今日のナラ枯れや野生動物の被害を助長したかもしれないと書きました。それらの解決には、再び利用することで攪乱を起こし、多くの人が森へ出かけて欲しいと呼びかけました。焼き畑にはそうした攪乱としての役目と耳目を引くイベント性があります。多くの読者の方々に同意していただけるよう連載を続けてきました。次のステージは、まだそれを知らない人々に伝える同志を募ってみたいのです。里山へ人を誘う同志です。「森のソムリエ」と命名しました。ソムリエとはお客様の食事にあうワインをアドバイスするサービスマンです。だから、人々(お客様)の森との関わりを介添えするのが森のソムリエです。ただし、あまり肩肘を張ることはありません。最初は好きな樹を自分なりに調べて、他人(ひと)にその魅力を熱く伝えてもらえればよいのです。そうしたお気に入りを5、10、100種と徐々に増やしていくのはどうでしょう? 覚えるのが苦手ならお勧めの散策コースを紹介するのもいいですね。木の使い方や文化でもいい。とにかく、伝えたい森の何かがあれば、それで一つ星ソムリエの誕生です。年に数回の講習と実技をこなす度に星の数が増えることにしましょう。霞ケ関で説明したプロジェクトとは、このソムリエ構想だったのです。その甲斐あって、この度ソムリエとそのお客様のための導入本を刊行することができました。タイトルは『森のじかん』。そう!なにを隠そうこれまでの連載を再編したものです。「親しみ、学び、育てる森歩き」という副題を添えました。執筆陣の自信作をそろえ、写真もカラーで復活しました。ご希望の方には、鶴岡市役所地域振興課にて差し上げています。代金は不要です。森歩きのお供に是非どうぞ。ソムリエになるつもりはない方でも読み物として楽しめるはずです。焼き畑や攪乱の意義も再度載せました。だからお願いがあります。私の代わりに霞ケ関で焼き畑を語ってください。
(山形大学農学部教授専門はブナ林をはじめとする生態学)