2018年(平成30年) 8月29日(水)付紙面より
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鶴岡市は、同市の伝統産業である絹産業の一貫工程の存続に向け、市内では2015年から途絶えた状態となっている養蚕業を再興しようと、新たに環境整備実証事業をスタートさせる。温海地域の木野俣地区にある旧福栄小学校の校舎の一部を活用し、9月から約6500頭の蚕の飼育を始める。近くには蚕の餌となる桑の木植栽も進められており、10年後をめどに県内の養蚕農家1戸当たり平均飼育数に相当する30万頭までに拡大し、養蚕業の確立を目指す。
絹産業の文化を保存伝承する「鶴岡シルクタウンプロジェクト」の一環で、取り組みを進める。養蚕から製糸、製織、精練、捺染(なっせん)、縫製と一貫工程が国内で唯一残る地域だったが、藤島地域の添川地区で長く養蚕を続けていた農家が亡くなり、15年からは松ケ岡開墾場での小規模な飼育が行われてきた。さらに、庄内地域で唯一の遊佐町の養蚕農家も高齢となり、庄内での養蚕が完全に途絶える可能性もある。本年度の県内の養蚕農家は7戸。
鶴岡市の事業は、中山間地域の耕作放棄地解消などに取り組む「あつみ農地保全組合」(菅原久継社長)が市の委託を受け、旧福栄小校舎を活用して進める。福島県から取り寄せる稚蚕で、来年度からは春と秋の2回の飼育を行い、5年後に15万頭、10年後に30万頭の飼育を計画。生産拡大に向け、校舎近くの耕作放棄地に桑の苗木の植栽も本年度から本格的に始めた。3年後には30アールの桑園に整備予定で、その後は1―2ヘクタールまで桑園を広げていく。
9月からの飼育開始に向け、27日には茨城県にある大日本蚕糸会蚕業技術研究所の持田裕司主任研究員が訪れ、指導に当たった。必要量の桑が調達可能となるまでは、一部に人工飼料を使って飼育し、こうした点や校舎の空調など飼育環境についてアドバイスした。
市農政課は「養蚕文化の中心的施設だった松ケ岡開墾場などが『サムライゆかりのシルク』として日本遺産に認定された。国内で唯一の絹産業の一貫工程が残る地域の存続のため、農業の複合経営の一つとして養蚕業の再興を図りたい」と話す。
元庄内経済連で稚蚕飼育の指導に当たっていた、あつみ農地保全組合の菅原社長は「難しい面はあるが、養蚕だけでなく、桑の葉や繭を使った6次産業化も視野に入れ、中山間地に元気と活力を呼び込む地域づくりの取り組みも念頭に取り組みを進めたい。課題は整備する桑園のサルの食害対策。冬場にサルが桑の芽や樹皮まで食べてしまう場合があり、今冬の食害がどの程度あるかを見極めないといけない」と話した。