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2023年(令和5年) 12月6日(水)付紙面より

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へそ曲がりの戯言35 アメリカの憂鬱

 11月23日には欧米の人たちは「サンクス・ギビング(感謝祭)」を祝います。私たち夫婦はアメリカ人の知人のホームパーティーに招かれ、大きな七面鳥などをご馳走になり楽しいひとときを過ごしました。その時話題になった鬱陶(うっとう)しい話題が気になったので、今回取り上げました。

 ホストはアメリカ人の夫とタイ人の妻、参加したのはアメリカ人の夫とメキシコ人の妻のカップルと日本人の夫婦2組などです。外国人のカップルは、いずれも日本語を勉強するために来日してお互い知り合ったという縁の持ち主で、日本が好きで日本に住み着きました。

 メキシコの女性は日本が安全なのが嬉しいと言っていました。来日して、夜でも女性ひとりで外を歩けるのにビックリしたとか。でもこう加えます。「私たちの子供達は日本で生まれて育ったから、『安全』に対する感覚が日本人と同じで、他の国に出掛けた時こんな感覚でいたら思いがけない危険に巻き込まれる恐れがあり、それが一番気がかりです」。そうかもしれないなと考えさせられました。

 やがて、日本は安全だけれど、ニューヨークではという話になりました。ニューヨークのコンビニやドラッグストアでは万引が横行しているので、商品は全て鍵のかかったガラスのケースに入っており、消費者は自分で気軽に手にしてチェック出来ないそうです。品物について詳しく知りたいとか買いたいと思えば店員さんを呼ぶ必要があります。

 ニューヨーク市警によると2021年、22年と犯罪が増えており、特に窃盗事件は22年は6万7000件で実に1万3000件と25%も増えています。アメリカ全体では横ばいで、ニューヨークの治安の悪化が際立っています。

 この背景には貧富の格差が広がっていることがありそうです。物価の高いニューヨークではラーメンが65ドル、1ドル=150円で1万円もしますから、所得の低い人たちの生活を圧迫しているのは間違いないでしょう。労働争議・ストライキも増えており、アメリカ労働省の調べでは、労働組合によるストライキで働かない「労働損失日数」が8月には410万日と、2000年以来23年ぶりの高い水準になっています。

 アメリカの犯罪のピークは1980年代でした。私が初めてアメリカを訪れたのは1984年で、殺人・強盗が横行しておりニューヨークでは地下鉄に乗ってはいけないと注意されました。ある晩、五番街から小路を入ったところ、フェンスで囲まれた工事現場から男女の異様なうめき声が聞こえます。何事かと思って隙間から見たら若い男女がセックスしていました。こんな調子で本当にすさんでいました。犯罪のピークは1990年初頭で、その後は落ちついていたのに、それが突然増え始めたのですから、再び社会が混乱してきたのではないかと穏やかではいられません。

 パーティーでは、次に「大麻」が話題に上りました。アメリカでは州ごとに大麻が合法化され始め、ニューヨーク州でも21年春から娯楽用に大麻を使ったり持つことが認められるようになりました。ニューヨークに住んでいるアメリカ人は「町中異様な匂いがしている」とこぼしていました。大学のキャンパスでも、マリファナの匂いが立ちこめているそうです。

 アメリカでは2000年頃からオキシコンチンという麻薬成分の入ったオピオイド系の鎮痛剤を服用した結果、副作用で年間数万人の死者が出る事件がありました。鎮痛剤自体は医療行為に使われるものですが、気持ちが良くなる作用もあるために、次第に大量に摂取したり常習的に使い、さらに本物の麻薬に手を出す人も増えて大きな社会問題になっています。ちなみに、2021年には薬物中毒による死者は初めて10万人を超えました。

 ニューヨーク州知事は大麻を合法化すれば税収の増加が見込めるとコメントしていますが、これだけの事件を経験しながら、何故大麻が合法となるのか私は理解出来ません。防波堤がなくなったら薬物の乱用は歯止めがなくなります。実際、ニューヨークでは、フェンタニルという、医療現場で使われるモルヒネの50倍から100倍の効力を持つ強力な鎮痛剤が闇市場で違法に売り買いされ、死者も出ていると言います。

 私が中学生の時、「目薬」を口にすると幻覚症状が起き「ラリって気持ちが良い」という不良青年がいて、先生からくれぐれもそんなことをしないよう注意を受けました。どの時代でも薬物に対する好奇心は抑えられないのかもしれません。日本でも大麻成分の入ったグミを食べた人が中毒になる出来事が起きています。アメリカの話を聞きながら、薬物に対しては相当の覚悟で抑え込みにかかる必要があると痛感しました。

 経済的な繁栄を謳歌しているアメリカですが、「万引」と「大麻」のエピソードを聞きながら、アメリカ社会は根っこのところから少しずつ歯車が狂い始めているのではないかと、私は憂鬱(ゆううつ)になりました。日本が同じような道を辿らないことを願うばかりです。

山田 伸二(東北公益文科大学客員教授、元NHK解説委員)



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