2024年(令和6年) 8月10日(土)付紙面より
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国立がん研究センターと順天堂大、腸内細菌研究に基づく医療・創薬事業に取り組むメタジェンセラピューティクス(MGTx、鶴岡市)は8日、食道がんと胃がんの患者を対象に、健康な人の便から採取した腸内細菌を移植し、がん免疫薬の効果向上を目指す臨床試験を開始すると発表した。臨床でがん患者に腸内細菌を移植する本格的な試験は国内初。試験は同センター中央病院で行い、MGTxと順天堂大は患者に注入する腸内細菌叢(そう)溶液の調製などを担う。
8月中に患者の登録を始め、最大45人への移植を計画し、約1年かけて安全性と有効性を確かめる。
手術でがんを完全に取り切るのが難しかったり、手術後に再発したりした食道がんと胃がんの患者を対象にする。患者に3種類の抗菌薬を1週間投与した後、適格性検査を経た健康な「腸内細菌ドナー(提供者)」の便から調整した溶液を患者の大腸に内視鏡で注入し細菌叢を移植。翌日以降にがん治療の一つ「免疫チェックポイント阻害薬」を含む治療を行う。細菌叢移植と同阻害薬の併用による新たな治療の構築を目指す。
MGTxは鶴岡市の慶應義塾大先端生命科学研究所発のバイオベンチャー「メタジェン」の子会社として、2020年1月に設立。順天堂大と共同で23年1月から難病の潰瘍性大腸炎の患者を対象にした先進医療の腸内細菌叢移植を実施している。今年4月には健康な便のドナーを募る「腸内細菌叢バンク」を開始。来年4月には鶴岡市を中心にした庄内地域在住者をドナーとする「献便施設」を鶴岡サイエンスパーク内に開設する。
がん患者への腸内細菌叢移植の臨床試験は、順天堂大の医療技術とMGTxの取り組みを応用する形となる。MGTx取締役も務める石川大・順天堂大医学部准教授は「順天堂大で2014年に始まった腸内細菌叢移植の臨床研究症例数は240例以上になった。この移植治療は今後、さまざまな疾患の治療の選択肢となる可能性を秘めている。研究成果を多くの患者さんに一日でも早く届けられるよう研究を進めていく」とコメントしている。