2024年(令和6年) 9月22日(日)付紙面より
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長屋や湯屋、呉服店など江戸の下町の建物を精巧なミニチュアで表現した当別企画展「手のひらに、江戸 檜(ひのき)細工師 三浦宏の粋」が21日、鶴岡市の致道博物館で始まった。檜職人の確かな技術で作られたミニチュアの建物からは、江戸下町の暮らしが伝わってくる。
檜細工師の三浦宏さん(1926―2019年)は生前、鶴岡市立藤沢周平記念館の企画展へ4回にわたって作品を貸し出しており、鶴岡市を訪れたこともある。そうした縁から今回、三浦さんにとって庄内では初の個展開催が決まった。
致道博物館側が三浦さんの長女で作品を管理している佳子さん(55)=東京都台東区=へ「可能な限り出品数を多くしたい」と申し出たところ、三浦さんの個展では過去最多となる100点超が集まった。
メインのミニチュアは長屋や湯屋(現代の銭湯)、呉服屋などで、10分の1サイズと20分の1サイズを出展。江戸の人々が旅先で宿泊した旅籠や、居酒屋の元になった「めし屋」など、当時の文化や庶民の暮らしが伝わってくるミニチュア建物も飾られた。床の間や長屋の薄い布団、徳利など建物内部や生活道具も忠実に再現されており、雨戸や障子が閉まるほど緻密な作り。このほか釣り船や火消しのまといのミニチュアも多数展示された。
佳子さんは「1つの会場に父の作品がこれほどそろったことはない。縮尺の違いや作品のボリュームなどを見ながら、江戸下町の世界に迷い込んだ気持ちになって楽しんでもらえれば」と話していた。
展示は11月11日(月)まで。来月20日(日)は荘内神社参集殿で記念講演会が行われ、江戸東京たてもの園の市川寛明園長が講演する。また、11月3日(日)は致道博物館で午前10時と午後2時の2回にわたり日本人形文化研究所の林直輝所長によるスペシャルトークが開かれる。問い合わせは同館=電0235(22)1199=へ。
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三浦宏さんは1926(大正15)年、東京・浅草生まれ。家業の「三浦風呂製作所」を継いで檜風呂や手おけなどを製作した。木製風呂の需要減少に伴い風呂おけ以外の製品作りを試行錯誤する傍ら、子どもの頃から親しんできた和船のミニチュア製作を始めた。
1980(昭和55)年、人形師の辻村寿三郎氏(故人)による「吉原展」の開催に当たり、三浦さんへ鼓楼「三浦屋」のミニチュア製作が依頼された。完成したミニチュアは3メートル四方に及び、その精巧さで大きな話題となった。これを機に、三浦さんは江戸期の家屋や船などの製作に力を入れるようになり、2019(令和元)年92歳で亡くなるまで建物だけで100点超のミニチュアを作った。