2006年(平成18年) 3月4日(土)付紙面より
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大正年間に数回酒田を訪れ画会を開くなどした、美人画で知られる日本画家・竹久夢二(1884―1934年)の作品を集めた展示会「新田嘉一コレクション―夢二芸術の頂点のひと『あべまりあの鐘』」が、酒田市の相馬樓(樓主・新田嘉一平田牧場会長)で開かれている。今回の展示が初公開となる軸装「あべまりあの鐘」(絹本着色)をはじめ、あでやかな美人画7点が並んでいる。
夢二は岡山県本庄村生まれ。1902年に早稲田実業学校に入学。在学中に描いた作品が平民社機関誌「直言」に掲載されるなど頭角を現す。09年に出版された「夢二画集」は大ベストセラーになり、夢二の名を知らしめたが、画壇には所属しなかった。その後は女性遍歴を重ねつつ、彼女たちをモデルに美人画を多数書いた。21―22年にかけ酒田を訪れ、画会を開いている。34年9月に50歳で死去した。
今回は、新田会長が所有するコレクションの中から「あべまりあの鐘」をはじめ、代表作の一つで相馬樓の前身・相馬屋のために描いたとされる「からふねや」「夏美人」など夢二の代表作7点を飾った。個人でこれだけの作品を所有するのは全国的にも珍しいという。
このうち「あべまりあの鐘」は、これまで存在が知られていなかった作品で、下部に押された落款から最盛期の1919(大正8)年ごろの作と推定される。青色を基調とした和服に赤い鼻緒のぞうりを履いた女性を中心に描き、背景に教会やガス灯、修道女、小高い山々を配している。
作品について、山形美術館(山形市)の加藤千明館長は「このころ、夢二が愛した女性はお葉であり、本作品に描かれた女性の顔、特に目元はお葉を彷彿(ほうふつ)させる。夢二は酒田を訪れており、日本的な情緒とモダンな感覚の溶け合った『あべまりあの鐘』が新田コレクションにおさまり、酒田の相馬樓に飾られるのも不思議な縁」と紹介している。
日ごろ目にすることの少ない名画の数々に訪れた人たちは作品の前で足を止め、心ゆくまで鑑賞していた。展示は5月30日まで。
今回初公開されている「あべまりあの鐘」