2008年(平成20年) 1月18日(金)付紙面より
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鶴岡市の慶應大先端生命科学研究所(冨田勝所長)は、南米・チリ共和国の鉱業技術研究企業バイオシグマ社と、含有量の低い銅鉱石から微生物を用いて効率的に銅を取り出す共同研究に取り組む。16日、同市先端研究産業支援センター(鶴岡メタボーロムキャンパス)で契約を締結した。
チリは金属鉱物資源に恵まれ、銅の採掘量は世界一。同社は、日鉱金属(東京都港区)とチリ国営銅公社が共同で設立した企業。バクテリアなど地中の微生物を活性化させて鉱石を溶かし、硫酸を加えて金属を取り出す技術(バイオ・マイニング)の研究開発を行っている。
同社によると、バイオ・マイニングの実証実験で、一般的な精錬技術では処理できなかった銅の含有量が低い鉱石からの銅生産に成功している。しかし、バイオ・マイニングに用いるこうした有益な微生物については、メカニズムなど科学的に解明されていない部分が多く、コントロールが難しいという。
今回の共同研究では、慶應先端生命研が開発した細胞内の全代謝物質を短時間で測定・解析するメタボローム技術を活用。3種類の微生物について機能や性質などメカニズムを解明し、低品位の銅鉱石からの抽出技術を高め、バイオ・マイニングの実用化、増産に結び付ける。同センター内に研究所を開設し、バ社から研究者3人が派遣され2年間をめどに研究を進める。
バ社など関係者によると、低品位の鉱石について現在の採掘現場では廃棄したり、採掘しないことがほとんどという。また、既存技術で抽出できる銅の生産量は世界で4・8億トンだが、バイオ・マイニングの技術開発が高まると三十数億トンに上るとみられている。
メタボロームキャンパスで行われた会見には、冨田所長、同社ゼネラルマネージャーのリカルド・バディージャ氏とシニア・コンサルタントの谷口能敬氏などが出席。研究内容について説明した。会見に先立って行われた締結式にはダニエル・カルバージョ駐日チリ大使も出席した。
冨田所長は「微生物がどういうメカニズムで活動しているか、ほとんど分かっていない。メタボローム技術などを生かし微生物の代謝を徹底的に調べ、バイオ・マイニングの研究促進につながれば。銅の含有量が低い鉱石から効率よく抽出する技術が進めば経済的インパクトは計り知れない。バイオテクノロジー技術の開発にもつながると期待している」と話した。
共同研究を締結し、握手する冨田所長(左)とバディージャゼネラルマネージャー