2009年(平成21年) 8月18日(火)付紙面より
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森と池と湿地―水でつながる生態系― 林田 光祐
突き刺さるような真夏の日射しをさけて、森の木陰に入るとほっとします。そこに清流があれば涼しさ倍増です。こんな時、森の緩衝機能のありがたみを実感します。
高館山の森から流れる水をためた上池と下池が昨年10月にラムサール条約の指定湿地に登録されました。ラムサール条約は水鳥等の生息地として国際的に重要な湿地を保全するために定められた国際条約で、湿地を保護するだけでなく、ワイズユース(賢く利用すること)も求めています。両池では、毎年秋から冬にかけて、マガモを中心として数万羽のカモやガン、ハクチョウ類が渡来します。この鳥たちの排泄物による池の水質の悪化が懸念されています。
下池の水質を調べている農学部の梶原晶彦さんの研究室の分析によると、確かに冬から春にかけては水質が悪化しているようです。ところが、今のところ夏から秋には改善されて元に戻っているようなのです。水源である高館山の森がきれいな水を流し続けているからではないかと私は考えています。
下池のほとりの都沢と呼ばれる場所に湿地が広がっています。10年ぐらい前までは田んぼだった場所です。今、この都沢では湿地を再生・保全する活動が始まっています。地元の住民の皆さんはもちろん、多くの市民の方々が保全サポーターとして参加しています。
都沢に親水水路と水質浄化実験区域が整備されました。下池の水を湿地に引き入れて、湿地がもつ水を浄化する機能を発揮させ、きれいになった水を子供たちが遊べる親水水路に流すという考えでつくられた施設です。実際に、春から初夏にかけて、湿地の出口から流れ出す水は、流入する水に比べて水質のひとつの指標である窒素が少なくなっていることが明らかになっています。この浄化区域を設置する際に、区域内の植物を重機で取り除いたのですが、数カ月後の初夏には区域全体が緑に覆われました。驚くべき回復力です。土の中に残っていた根や種子から湿性植物が再生し、土や水に含まれる窒素を栄養として吸収して成長したのです。つまり、植物の旺盛な成長が水をきれいにしているのです。
水質浄化機能を十分発揮するためには、窒素を吸収した植物体を湿地から持ち出す必要があります。そこで、サポーターの皆さんと一緒に区域内のマコモやヨシを刈り出す作業を行っています。しかし、予想をはるかに超えてこれらの大型植物が繁茂したため、刈り出した植物の処分方法という課題にぶつかってしまいました。賢く利用する知恵を広く求めて何とか解決したいと考えています。
都沢湿地は下池や高館山の森があるからこそ成立している湿地です。つながりを実感できる生態系を多くの人のつながりで保全していこう。庄内自然博物園(仮称)構想はこのような考えで進められています。
(山形大学農学部教授、専門は生物多様性の保全を主とした森林生態学)
都沢湿地と高館山/鶴岡市大山・下池にて=自然写真家・斎藤政広(2009年6月3日撮影)