2011年(平成23年) 6月1日(水)付紙面より
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鶴岡市上藤島のJR藤島駅前で、地元の若手農業者が空き店舗を利用して八百屋を始め、周辺住民から喜ばれている。近所にあったスーパーが約10年前に郊外に移転するなど空洞化が進み、高齢者らは“買い物難民”になりつつあった。利用者たちは「近所の人と顔を合わせるのも楽しみ」と交流の場の復活を喜び、毎日のように足を運ぶ人も少なくないという。
この八百屋は「小玉や」。昨年6月まで同じ店名の小売酒販店だったが、廃業し、空き店舗になっていた。ここを、法人化して花きを生産・販売している冨樫正興さん(44)=同市平形=が借り、店名はそのままに今年3月末に八百屋としてオープンさせた。元店主の小玉清さん(73)=上藤島=を含む4人を雇用、仕入れや販売で働いてもらっている。
商品は当初、自らが作る花と地元産を中心にした野菜だけだったが、利用者の要望に応じて肉や魚、豆腐、調味料、駄菓子など次第に充実。毎週金・土・日曜日の午前6時からは「朝市」を開いて人気を呼び、経営は軌道に乗りつつあるという。
冨樫さんは「駅前は次々に店が閉まり、シャッター通りになってしまった。車を運転できない高齢者など買い物に困っている人も多く、地元の人間として何とかしたいと思っていた」と八百屋を始めた理由を語る。
店の特徴については、▽スーパーにないフットワークの軽さ▽コンビニにない地元の生鮮食品▽自分で作る花▽客から「○○を置いてほしい」と言われれば、可能な限り応える▽生産者が買ってくれる―を挙げる。
生産者については、自らも花を生産・販売している立場から、「売り上げに応じた歩合より、現金で買い取る方が安心して取引できる」との考えで、納品のときに直接支払う。その心意気を買う意味もあるのか、多くがその場で肉や魚など商品を買ってくれ、「ほとんど物々交換」(冨樫さん)という。
夕方にはひっきりなしに客が来て、お互いに楽しそうにおしゃべりする。冨樫さんはその様子を「これが最高。スーパーではあまり見掛けない光景でしょ」と自慢げ。
ほぼ毎日買い物に来るという近所の常連客の女性(72)は「駅前がにぎやかになって良かった。近所の人と顔を合わせる機会も減っていたが、憩いの場が復活した。特に朝市のときはみんなに会えるので楽しい」と喜ぶ。
小玉さんは「お客さんがたくさん来るのでうれしい。店を閉めたころは体調を崩していたが、今はみんなに『元気になった』と言われる。実際に元気をもらった」とする。
冨樫さんは「お客さんは近所の高齢者が多い。値引きしようとすると、『いい』と断る人もいる。『頑張れ』という意味だと思う。地域の人たちがつくりあげてきた店。必要とされているし、やろうと思えばできると確信。生産者と消費者双方を大事にする地産地消の在り方としても重要では。次は駄菓子屋や総菜屋も」と夢を膨らませている。