2024年11月27日 水曜日

文字サイズ変更



  • プリント用表示
  • 通常画面表示

荘内日報ニュース


日付の新しい記事へページを移動する日付の古い記事へ
  • ニューストップ
  • 最新記事
  • 戻る

2013年(平成25年) 5月11日(土)付紙面より

ツイート

森の時間64 ―山形大学農学部からみなさんへ―

コーボー・サミット  小山 浩正

 赤川を河口から遡って梵字川と分かれる地点まで、両岸にある神社や祠を探し回ったことがあります。大小あわせて70くらいを見つけましたが、ほとんどが大木の木陰で見つかります。だからすぐに鼻が利くようになって、遠くからでも巨木を手がかりに簡単に探せます。治水技術のおかげで出水の脅威はかなり減りましたが、昔の赤川は手強い暴れ川だったはずです。そんな川の側にも関わらず巨木が残っている所は、それだけ長いこと被害がなく安全だった証です。だから「氾濫しそうになったら、あの木へ逃げろ」という目印になり、それがいつしか信仰となっていっても不思議はありません。仙台には昔の津波が到達した境目に「浪分神社」が建てられています。三陸にも同様の石碑が点在するそうです。同じような考え方が氾濫原でも根付いたのではないでしょうか。

 一般に、こうした河岸の社には水神の代表格である金比羅(琴平)が祀られますが、治水の代名詞である弘法大師の祠もかなりあります。ところが、庄内では弘法さんが対岸に行きたいと頼んだのに舟を出してくれなかったので、腹いせに呪文で川を氾濫させたという伝説が残っています。仏道を究めた人にしては大人気ないし、そもそもそんな法力があるなら舟が無くとも渡れるでしょ?とツッコミたくなりますが、平凡な聖人伝説より断然面白い。その弘法さんが六十里越を訪れて、途中腰掛けて清水を飲んだと伝えられる「柳清水」では、食事の後に箸を地面に刺したら芽吹いて育ったというヤナギの木があります。

 実は、私たちも野外調査で弁当の箸を忘れると、やはり辺りの小枝を折って調達します。ヤナギは再生力が強く、自然に落ちた枝から繁殖することもあるし、伐り集めた小枝を地中に埋めて林を造る「埋枝工」という技法もあるくらいなので、急ごしらえで調達した箸がヤナギだったのなら、刺した枝が根付くのは全くあり得ない話ではないのです。少なくともブナやナラでは無理な芸当なので、ヤナギを題材としているところに一分のリアリティーがあり、この民話が樹木の知識に裏打ちされたものであることを物語っています。先日尋ねた戸沢村にも、同じく箸に使った枝から育ったという天然記念物のヤナギがありました。興味深い一致です。

 弘法にまつわる面白い話がこんなに揃っているのだから、庄内の話題作りに使えないだろうか?とある同僚に話したら「弘法大師なんて全国に伝説があるから、それでは売りにならないだろうよ」と言われました。確かにそうですね。だったら「弘法サミット」はどうでしょう?全国から募って「弘法さんはうちの街でこんな事やった」と自慢しあうのです。密教界のスーパースターの意外な奇行がたくさん暴かれそうでワクワクします。守護聖人なのに川を氾濫させた庄内の弘法さんは、その中でも金メダル級ではないでしょうか。

(山形大学農学部教授 専門はブナ林をはじめとする生態学)

赤川頭首工と赤川=自然写真家・斎藤政広(1998年9月12日撮影)
赤川頭首工と赤川=自然写真家・斎藤政広(1998年9月12日撮影)



日付の新しい記事へページを移動する日付の古い記事へ

記事の検索

■ 発行月による検索
年  月 

※年・月を指定し移動ボタンをクリックしてください。
※2005年4月分より検索可能です。

  ■ キーワードによる検索
   

※お探しのキーワードを入力し「検索」ボタンをクリックしてください。
※複数のキーワードを指定する場合は半角スペースを空けてください。

  • ニューストップ
  • 最新記事
  • 戻る
ページの先頭へ

ニッポー広場メニュー
お口の健康そこが知りたい
気になるお口の健康について、歯科医の先生方が分かりやすく解説します
鶴岡・致道博物館 記念特別展 徳川四天王筆頭 酒井忠次
酒井家庄内入部400年を記念し、徳川家康の重臣として活躍した酒井家初代・忠次公の逸話を交え事績をたどる。
致道博物館 記念特別展 第2部 中興の祖 酒井忠徳と庄内藩校致道館
酒井家庄内入部400年を記念し、庄内藩中興の祖と称された酒井家9代・忠徳公の業績と生涯をたどる。
致道博物館 記念特別展 第3部 民衆のチカラ 三方領知替え阻止運動
江戸幕府が3大名に命じた転封令。幕命撤回に至る、庄内全域で巻き起こった阻止運動をたどる。
致道博物館 記念特別展 第4部 藩祖 酒井 忠勝
酒井家3代で初代藩主として、庄内と酒井家400年の基盤を整えた忠勝公の事績をたどる。
致道博物館 記念特別展 第5部 「酒井家の明治維新 戊辰戦争と松ケ岡開墾」
幕末~明治・大正の激動期の庄内藩と明治維新後も鶴岡に住み続けた酒井家の事績をたどる。
酒井家庄内入部400年
酒井家が藩主として庄内に入部し400年を迎えます。東北公益文科大学の門松秀樹さんがその歴史を紹介します。
続教育の本質
教育現場に身を置く筆者による提言の続編です。
教育の本質
子どもたちを取り巻く環境は日々変化しています。長らく教育現場に身を置く筆者が教育をテーマに提言しています。
柏戸の真実
鶴岡市櫛引地域出身の大相撲の元横綱・柏戸の土俵人生に迫ります。本人の歩み、努力を温かく見守った家族・親族や関係者の視点も多く交えて振り返ります。
藤沢周平の魅力 海坂かわら版
藤沢周平作品の魅力を研究者などの視点から紹介しています
郷土の先人・先覚
世界あるいは全国で活躍し、各分野で礎を築いた庄内出身の先人・先覚たちを紹介しています
美食同元
旬の食べ物を使った、おいしくて簡単、栄養満点の食事のポイントを学んでいきましょう
庄内海の幸山の幸
庄内の「うまいもの」を関係者のお話などを交えながら解説しています

株式会社 荘内日報社   本社:〒997-0035 山形県鶴岡市馬場町8-29  (私書箱専用〒997-8691) TEL 0235-22-1480
System construction by S-Field