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2014年(平成26年) 7月15日(火)付紙面より

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森の時間78 ―山形大学農学部からみなさんへ―

やまびこの謎 野堀 嘉裕

 やまびこは山林での音の反射現象のひとつです。明治時代以前は妖怪が人を相手に声をまねて遊んでいるのだと言い伝えられてきました。日本でやまびこを知らない人はいないと思いますが、実際に経験したことがある人はそれほど多くないと思います。そのやまびこは鶴岡市街からそれほど遠くない月山ダムの管理事務所周辺では良く聞こえます。湖水の反対側に向かって「ヤッホー」と叫ぶと少し遅れて「ヤッホー」と返ってきます。このやまびこについて調べてきた中でいくつかの面白い話を紹介しましょう。

 やまびこが良く聞こえる条件を探るために毎月15日、同じ場所で音を出してやまびこが返ってくる条件を調べました。7月には24時間調査も行いました。山中にデジタル発信機、スピーカー、高感度マイク、デジタル録音機などを持ち込み大きな声で叫んでいると、いったい何をしているのかと尋ねられます。調査の結果、夏でも冬でもやまびこは聞こえますが、雨でない日の日没後、湿度が高くなる時間帯で、女性の甲高い声だと良く聞こえることがわかりました。昔語りでは夏の夜半によく出る妖怪とされていますが、条件はピッタリです。昔の人の感覚には感心させられます。

 湖水の対岸の地形が大きく湾曲しているところでやまびきは大きく聞こえますが、対岸に小さい湾曲部分がいくつもあれば、やまびこが複数回返ってくることもあります。日本で最も大きなやまびこが返ってくることで知られているのは和歌山県日高川町です。何回も返ってくるやまびこで有名なのは徳島県上勝町です。いずれも町おこしの起爆剤にやまびこを活用しています。なんと徳島県上勝町では7回のやまびこを観測したことがあるそうです。月山ダム周辺では最大で3回のやまびこを聞いたことがあります。

 一方、月山ダム管理事務所から10分くらいのところに「たしろ多目的広場」がありますが、ここは他と違って面白い特徴を持っています。やまびこの良く聞こえる場所から下流方向に50メートルの巻尺を引いて5メートルごとに人に立ってもらいます。一番最初の人にヤッホーと叫んでもらい、どこからやまびこが聞こえたのか、腕を挙げてその方法を指示してもらうと、皆さん違う方向を指します。つまり、皆さんが同じやまびこを聞いているわけではないということになります。昔の人がやまびこを妖怪の仕業だと思ったのも無理はありません。誰かの声を真似する妖怪は色んなところにたくさんいることになるのです。相当不気味なことだと思ったに違いありません。

 欧米の人にやまびこのことを問うと、おそらく新幹線のことかと答えると思います。ほとんどの欧米人はやまびこのような自然現象に無関心です。スズムシの鳴き声と同じで、なんでやまびこが面白いのかわからないといいます。欧米人の無関心はやまびこの謎のひとつかもしれません。

(山形大学農学部教授 専門は森林資源計画学)

月山ダム湖 2011年11月4日=自然写真家・齋藤政広撮影
月山ダム湖 2011年11月4日=自然写真家・齋藤政広撮影



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