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2018年(平成30年) 1月12日(金)付紙面より

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森の時間120 終 ―山形大学農学部からみなさんへ―

 「森の旅2016」(2006年以来、毎年「森の旅」でドイツを訪問しています)で、フライブルクから南西へ約15キロ、シュヴァルツヴァルト(黒い森)の西側に張りつくように佇(たたず)む温泉保養地、バート・クロッチンゲンを訪れました。人口2万人弱の小都市ですが、保養・観光地として100年ほどの歴史を有しています。

 こじんまりした駅を降りると、駅前通りは商店街になっています。ドイツの町は、小さくてもその町の中で一通りの買い物ができる商店がそろっているのが特徴です。この町も温泉で療養しながら、不便なく日常生活を営むことができます。

 広い緑地帯のなかほどにツーリスト・インフォメーションの建物がありました。周辺は世界中から集められた珍しい樹木たちの見本園になっています。でも、決して植物園のようではなく、木々たちは自然な感じで配置されています。

 クアハウス(温泉施設)はもう少し奥にありました。最初に医師の問診や診察を受けてから、その人に合った温泉療法のレシピが処方されるのがドイツ方式だそうです。僕のドイツ人の恩人であるB氏も先ごろ心臓の手術を受けた後、ここでしばらく療養し、みごとに日常生活に復帰されました。

 クアハウスの内部も見学させていただきました。和式と思われる湯船を発見して驚きましたが、大分県の竹田市と交流があり、日本から職人を招いて整備した浴室だとか。そんな裸のつきあいがあったとは知りませんでした。建物の一角にカフェレストランがありました。ちょうど、バイオリンとベースとピアノによるミニクラシックコンサートが開かれるところでした。温泉で療養しながらおいしいコーヒーを飲み、素敵な音楽を聴く。緑に囲まれた癒やしの空間で、人々はそれぞれの健康を回復していくのでしょう。

 さて、バート・クロッチンゲンを含む南シュヴァルツヴァルト自然公園では、毎年さまざまなプロジェクトが進められています。最近紹介してもらったプロジェクトの中で印象的だったのは「バイク・ツーリング・イン・シュヴァルツヴァルト」(ドイツ語でバイクは自転車のこと)。緑の森の中を自転車で走るのですが、電動アシスト付き自転車を準備したり、手荷物を別送するしくみを作ったりして、熟年や中高年のためのサービスにも余念がないのに感心しました。

 もう一つは、「ジビエ料理プロジェクト」。自然公園内に棲(す)む野生動物の頭数調整のための狩猟で得られたジビエ肉を公園内にあるレストラン限定で提供するというものです。自然公園にはこのような契約(協力)レストランやカフェがいくつもあって、訪問客にここならではのサービスを提供しています。
 毎年、シュヴァルツヴァルトを訪れるたびに、ここの生活には森がよく活かされているなぁと感心します。森という「空間」も、そこからもたらされる「恵み」も、緑の空間が身近にあるという精神面での「癒やし」も、人々の生活の中に幅広く、かつ深く浸透しています。「森林文化都市」を標榜(ひょうぼう)する鶴岡市ですが、私たちの生活の中にも、もっと、もっと、森の存在を、森の恵みを、活かしていく試みに挑戦していければと思います。

 さて、10年間、計120回にわたって連載してきた「森の時間」ですが、今回を持っていったん連載を終えたいと思います。読者のみなさんから絶えず温かい励ましをいただきましたことに心から感謝いたします。最後に、主たる執筆者としてこの連載をけん引し、鶴岡・山形のブナの森をこよなく愛してやまなかった、故小山浩正氏の冥福を改めて祈りたいと思います。

(山形大学農学部教授、専門は園芸学および人間・植物関係学)

南シュヴァルツヴァルトの典型的な風景。谷あいに民家(多くは農家で、民宿も営んでいます)。周囲に牧草地があり、その上側には森林が配置されています(2016年12月1日)
南シュヴァルツヴァルトの典型的な風景。谷あいに民家(多くは農家で、民宿も営んでいます)。周囲に牧草地があり、その上側には森林が配置されています(2016年12月1日)

「バート・クロッチンゲン」(バートはドイツ語で温泉の意)のシンボルモニュメント。右側にいる元気がない人たちが温泉療法によって元気を取り戻す姿が表現されています(2016年12月2日、それぞれ筆者撮影)
「バート・クロッチンゲン」(バートはドイツ語で温泉の意)のシンボルモニュメント。右側にいる元気がない人たちが温泉療法によって元気を取り戻す姿が表現されています(2016年12月2日、それぞれ筆者撮影)



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