2020年(令和2年) 4月15日(水)付紙面より
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酒田市は今年10月から、同市中町一丁目の国指定史跡「旧鐙屋(あぶみや)」の大規模な修復に乗り出す。江戸から明治期にかけて大廻船問屋などとして活躍した酒田三十六人衆の一人・鐙屋惣左衛門の屋敷で、港町酒田の歴史・風土を象徴する史跡。約20年前の大規模改修から時間が経過し、屋根などの傷みが激しいため、2024年度まで5カ年程度をかけ、耐震補強と併せて修復する。
鐙屋は江戸初期の慶長13(1608)年、山形藩主・最上義光から屋号を与えられ、寛永年間(1624―44年)には酒田町年寄役となり、酒田三十六人衆の筆頭にも数えられた。その繁栄ぶりは、井原西鶴の「日本永代蔵」に「北の国一番の米の買入れ、惣左衛門といふ名をしらざるはなし」などと紹介された。
現在の建物は、幕末の弘化2(1845)年4月の「甘鯛火事」で被災後に再建されたもの。野地板の上に杉皮を敷き、それを石で押さえた「石置杉皮杉葺屋根」は風が強い当地の風土に根差した、酒田の典型的な町屋造りとされる。1984年5月には「日本海側における近世の代表的港町・商工都市として大きな役割を果たした酒田に残る、近世の経済活動を今に伝える唯一の大廻船問屋の極めて貴重な遺例」として、国史跡に指定された。86年には所有者の鐙谷家から市が土地・建物を取得し、87年から一般公開。90―97年度には建物全体の大規模改修を行った。木造一部2階建て、延べ床面積は約500平方メートル。
今回は、屋根部分の傷みが激しくなったことなどから、市が2015年度から現況調査、17年度からは設計を行っていた。計画では今年10月から工事に入り、建物全体を覆う素屋根を掛けた上、屋根全面(約700平方メートル)をふき替える。壁の一部は、細い竹などを組んだ木舞(こまい)に土を塗った土壁から、新たに耐力壁にし、耐震補強する。屋根については、現在覆っている杉皮を取り除かないと傷み具合が分からず、場合によっては野地板も全面的に交換するなど、状況を見ながら工事を進める。このため工期が1、2年延びる可能性もある。今のところ、工事費は約2億6000万円、うち半額が国からの補助を見込む。工事中は休館となる。市は本年度、関係予算として2142万円を計上。10月から建物周囲の板塀の撤去、植栽の移転、素屋根掛けなどを行う予定だ。市教育委員会社会教育文化課によると、近年の年間入館者は約1万2000人。はんてんを着て記念撮影したり、米俵を背負ったりする体験メニューが外国人にも人気で、酒田を代表する観光スポットになっている。ただ、現在は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、休館となっている。
同課の川島崇史文化財主査は「酒田に残る唯一の大廻船問屋の建物で、港町酒田の歴史・風土を象徴する町屋。新型コロナが落ち着けば、できれば工事前に一度公開し、みんなに見てもらいたい」としている。