2023年(令和5年) 6月27日(火)付紙面より
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鶴岡市羽黒町川代の農業、齋藤力さん(65)と長男の卓さん(37)親子を中心としたグループが、県内でも珍しいコンニャク芋の栽培に取り組んでいる。鶴岡市の食品会社から依頼を受けて始めた。齋藤さんの呼び掛けで生産農家は14軒まで増え「庄内こんにゃく芋生産組合」を組織している。家庭で食べる分だけ作っている農家はあるが、本格的に栽培しているのは県内の中でも齋藤さんのグループだけという。組合長を務める齋藤さんは「農業を維持していくためには企業とスクラムを組むことが必要不可欠。離農や後継者不足が指摘される中、民間会社とお互い『ウィンウィン』の関係を保ちながら地域農業を守り続けていきたい」と話している。
齋藤さんがコンニャク芋の栽培を始めたのは10年前。「玉こんにゃく」で知られる鶴岡市宝田三丁目の食品会社「まるい食品」(伊藤久美社長)から「地元で作られた生コンニャク芋を原料に加工し、地域のブランド化を進めていきたい」とオファーを受けた。
国内主産地の群馬から種芋を購入。「稲作や長芋を作っている自分らにとってノウハウなど全くなかったが何とか応えていこう」と手探りの状態の中で栽培に取り組んだ。県農業技術普及課や鶴岡高専を指導者にコンニャク芋に適した土壌を分析したり、群馬の農家に実地研修に出かけて技術を学んだ。最初の頃は冷蔵庫に保管していた種芋を見てびっくり。ほぼ全体にカビが生えて全滅状態となり、再び種芋を買い求めたという苦い経験も積んだ。
特にコンニャク芋の種芋は温度と湿度管理が難しい。齋藤さんは「冬期間に5度以下にならないようにすることと風通しを良くすることが大切。種芋はとてもデリケートで雑菌を持ち込んでもダメ。カビが広がって使えなくなる」と話す。
齋藤さん方では休耕地を活用し、例年6月上旬に種芋を植え付け10月下旬に収穫する。組合農家が生産した全量を「まるい食品」が買い取って加工。県が主催する「やまがたふるさと食品コンクール」(2019年)で、齋藤さんら生産組合のコンニャク芋を原料に仕上げた「黒蜜だんご」が最優秀賞(県知事賞)を受賞した。
まるい食品の伊藤社長(65)は「鶴岡市農政課から齋藤さんを紹介されたのが最初。全く分からないコンニャク芋の栽培を快く引き受けてくれた。今では作ってくれる農家が羽黒のほかに藤島や温海地域に広がり本当に助けてもらっている」と感謝する。
これまで地元の高校生や山形大学農学部の学生、まるい食品の従業員が農地に出向いて農作業を手伝いコンニャク芋の栽培に理解を深める活動もしてきた。生産組合のコンニャク芋を原料にした商品は15種類。県内のほか、東京や埼玉のスーパーなどで販売している。
伊藤社長は「農家と民間企業が手を結ぶことはとても大切なこと。これからも販売を通して『庄内産コンニャク芋』を県内外に広くアピールし、生産農家を応援していきたい」と笑顔を見せた。
2023年(令和5年) 6月27日(火)付紙面より
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庄内藩校致道館の教育精神や伝統文化の伝承と普及活動を行う致道館文化振興会議(会長・橋本政之荘内日報社社長)の総会が24日、鶴岡市の荘内神社参集殿で開かれ、「致道館の日『孔子祭』」や小学生を対象にした「庄内論語素読検定会」開催など本年度事業計画を決めた。
同会議は、鶴岡・庄内の精神風土を形成している致道館の教育精神などを将来に伝承することを目的に、2006年に発足。「論語一日一題カレンダー」を作製して頒布するなどの活動を展開している。
論語素読検定は、酒井家庄内入部400年を記念して昨年度に初めて実施したもの。本年度も夏休み中の8月6日(日)に国指定史跡旧庄内藩校致道館で開催する。「致道館の日『孔子祭』」は9月30日(土)に致道館で行い、同日に記念講演会や第15回児童・生徒論語作文発表会を荘内神社参集殿で開催する。このほか、少年少女古典素読教室を鶴岡市中央公民館などと共催、鶴岡書道会などと共催で小中学生を対象にした第26回論語書道作品展を11月3日(金)―6日(月)に鶴岡市中央公民館で開催する。欠員に伴う役員補充選任で、理事に小澤敏一氏(鶴岡市小学校長会)、監事に春山久氏(鶴岡市)を新任。物価高騰に伴い、一般会員の年会費を来年度から1000円引き上げ3000円に改定することを了承した。
総会終了後には一般参加による記念講演会があり、鶴岡市出身の植物学者で東京大大学院理学系研究科教授の東山哲也さん(52)が「『らんまん』から考える人材育成と植物科学」と題して講演した。
東山さんは朝暘五小、鶴岡二中、鶴岡南高を卒業し、東京大理学部に進学。放映中のNHK連続テレビ小説「らんまん」で主人公のモデルとなっている植物学者・牧野富太郎氏と同じ東大植物学教室で学んだ。花粉の内部で起こる植物の受精を初めて映像で捉え、140年の謎とされた「花粉管誘引物質」を発見し、この物質を「ルアー」と名付けた。研究の功績で数多くの賞を受賞している。
講演で東山さんは、「らんまん」の舞台にもなっている植物学教室に牧野氏が加わった頃の状況を、ドラマの登場人物と実際の学生や教員らとをなぞりながら紹介。「植物学の黎明(れいめい)期に優れた人材、特に若手が多く集まり、自由に研究を行う気風があった。それは100年ほど後に自分が入った時も変わらなかった。研究室に入り、担当教授からも『何でも好きな研究をして』と指導され、植物の受精を生きたまま見ることにこだわって研究を進めてきた」と語った。
若い人材が集まり、自由に学ぶといったことは現代の人材育成にも当てはまるとし、海外からも若手人材を集めて名古屋大教授時代に携わった研究所新設の経験を基に「高い目標に向かおうとする若手を集め、交わらせ、思う存分全力でやり切ることのできる環境をつくることで、人は育つ」と強調した。
人材育成に関してさらに、藩校致道館の教育の特色「天性重視・個性伸長」「自学自習」「会業の重視」に触れ、来春開校する県立致道館高校・致道館中学校について「致道館の教育精神を取り入れて若い人たちの個性を受け入れ、さらに強烈な個性を持った人材を育てる。ぜひユニークな活動を行ってほしい」と期待を寄せた。講演会には同会議の会員のほか、一般を含め約200人が参加した。
2023年(令和5年) 6月27日(火)付紙面より
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出羽庄内国際村(鶴岡市伊勢原町)のワールドバザールが、6月10・11日の両日開催された。来場者が約1200人、ステージの出演者や模擬店出店者、運営ボランティアなど、合わせて1500人以上が集まる盛況となった。
ワールドバザールは国際村最大の行事で知られるが、国際村の事業はこれだけではない。現在鶴岡市の外国人登録数は、800人を超えている。国別で多いのはベトナム、中国、フィリピン、韓国など。留学や就業、技能実習、結婚など来日理由は多様だ。人口比率はまだ1%に満たないが、一時的なインバウンドでなく、多くの外国人が隣人として暮らしている。
この外国人に対する日常的な支援が国際村の主な業務だ。まず日本語教育の実施がある。外国人向けの日本語教室は全国至る所にあるが、学習する側に立って個別に日時を調整し、たとえ一人でも対応するのが国際村の特徴だ。オンラインでの利用者もいる。約40人の日本語指導ボランティアが教えているが、この指導者養成の研修も国際村が担当している。
また日常生活でのコミュニティ通訳の活動も大切だ。日本語が不自由な外国人が、医療機関や官庁とのコミュニケーションが必要な場合に、14カ国語でサポートする。場合によっては行政機関と連携することもある。
国際村を定期的に訪問している中京大学教養教育研究院(名古屋市)の渋谷努教授は、今年もワールドバザールに来場し「鶴岡市の規模の自治体で、国際交流のための独立した施設を持つのは、他に例を見ない」と評価する。また「これまでは外国人への支援が注目されてきたが、受け入れ側の日本人の啓発も必要」とも指摘する。庄内でも文化や宗教の違いによる多様化に、どう向き合って共生するかを試される時代になった。
国際村の起源は1985年の国際青年年にさかのぼる。旧藤島町と旧羽黒町の有志が中心となって、庄内国際青年祭を企画した運動が、庄内全体に広がった。その拡大にアマゾン資料で知られる、山口吉彦・考子(なすこ)ご夫妻の力が寄与したことを忘れてはならない。庄内国際青年祭は1999年まで全15回開催された。
この盛り上がりを受けて発足したのが国際村だ。初期は国際交流が主な業務だったが、次第に外国人の生活支援、相談、日本語教室など、現在の形に発展した。鶴岡市役所では住民登録の際、外国人向けにパンフレットを渡す。それで国際村を知って訪れる人も多い。
国際化の流れとともに、庄内在住の外国人は増加し、国籍も多様化する。人口減少への対応として、外国人労働者の受け入れも進むだろう。一方、すでに長い間日本に居住している外国人、特に中国や韓国出身者の高齢化によって介護問題も浮上する。国際化とは複雑な側面を持つ。
国際村の役割はますます重要になりそうだが、対応するスタッフ不足も課題だ。国際村の機能を活(い)かして、さまざまな団体が協力するシステムの構築が求められるのではないか。庄内がこれまで育ててきた国際交流の基盤を活かし、日本人も外国人も生き生きと暮らせる地域を目指したい。
2023年(令和5年) 6月27日(火)付紙面より
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今年4月に「第57回吉川英治文化賞」を受賞した鶴岡市立加茂水族館名誉館長の村上龍男さん(83)=鶴岡市羽黒町野荒町=の受賞記念祝賀会が25日、同市のグランドエル・サンで開かれた。大勢の知人や支援者が集まり、「世界一のクラゲ水族館」の立役者を囲んで受賞の喜びを分かち合った。
祝賀会は一般財団法人鶴岡市開発公社理事長の阿部真一副市長や現館長の奥泉和也さんなどが発起人となり開催。友人や知人、県、市、取引先、水族館職員など合わせて210人余りが出席した。
初めに発起人を代表して阿部副市長が「村上さんは厳しい経営下にあった水族館をクラゲ展示種類数世界一の水族館として、庄内地方屈指の観光スポットに育て上げた功績により、このたびの受賞となった。受賞の喜びを分かち合い、楽しいひとときを過ごしてほしい」とあいさつした。加藤鮎子衆院議員、芳賀道也参院議員などによる来賓祝辞の後、村上さんと妻の和子さんに記念品や花束が贈られた。
続いて村上さんが「来場者がどん底となり、水族館の存続を諦めていた時、出合ったクラゲに全てを懸けた。水族館が市に買い戻され、当時の市長だった故富塚陽一さんに『思うようにやれ』と言われて本当に思うようにやり、周囲にはいろいろ迷惑をかけた」と振り返り、「水族館はこれほど多くの人に支えられている。その期待に応えて世界に加茂水族館の名を轟かせ地域活性化に貢献できるよう、微力ながら力を尽くしていきたい」と謝辞を述べた。
村上さんは1967(昭和42)年、26歳の若さで館長に就任。新潟と秋田に新しい水族館が次々とオープンし、一時は入場者が年間9万人まで落ち込んだ。97年にサンゴを展示した際、自然に生まれた「サカサクラゲ」との出合いをきっかけに、奥泉館長とクラゲ展示に特化した水族館づくりを進めた。今では全国各地から多くの来館者があり、世界一の規模を誇るクラゲ水族館(約80種展示)として人気を集めている。
2023年(令和5年) 6月27日(火)付紙面より
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地中海に関わる歴史や文化について研究している地中海学会(小佐野重利会長、会員約500人)の羽黒大会が24、25の両日、鶴岡市羽黒町のいでは文化記念館で開かれた。
今大会の2日目の司会を務める東京家政学院大学の松崎照明客員教授が、出羽三山で山伏修行をしたことをきっかけに出羽三山神社の阿部良一権宮司と知り合い、東日本山岳信仰の「聖地」で精神文化を学ぼうと開いた。
大会には地中海学会の会員と地元羽黒町手向の関係者ら合わせて約60人が参加した。初日は阿部権宮司が「地中海学会の皆さんから羽黒へ来ていただき、本当にうれしい。これもご縁があったからこそ。今年は月山の卯歳(うどし)御縁年。今回に限らず今後も四季折々の出羽三山を楽しんでいただければ」とあいさつ。山形大学の岩鼻通明名誉教授が「東アジア地中海と羽黒山」と題して講演した。
その中で岩鼻名誉教授は「江戸時代の出羽三山は登り口が庄内3カ所、村山3カ所、最上1カ所の計7カ所あり、その中でも約360軒の宿坊があった門前町の手向が一番にぎわった登り口と言えた。入山許可書を取得し羽黒山伏を案内人として三山を巡る形を取っていた」と当時の様子を説明した。
ディスカッションでは、東京大の秋山聰教授の司会で出羽三山神社斎館の伊藤新吉料理長、竹の露の相沢政男代表、千葉商科大・古代ギリシア史の師尾晶子教授、関西大・オスマン朝史の澤井一彰教授の4人が「聖地の食べ物・飲み物」について意見交換した。
2日目の25日は、松崎客員教授を司会者に阿部権宮司と出羽三山歴史博物館の渡辺幸学芸員、早稲田大・ビザンチン美術史の益田朋幸教授が「修行とその周辺」をテーマに語り合った。